プレイオフ準々決勝、トヨタヴェルブリッツ対NTTドコモレッドハリケーンズは、トヨタが33対29の接戦を制した。
リーグ戦で4勝3敗と勝ち越したドコモだが、得点力のあるチームではない。リーグ戦での平均トライ数3.1は16チーム中12番目である。この試合では、プレイスキックが好調なバンクスが10番で先発出場し、そのまま80分間プレイした。同じポジションで、リーグ戦で活躍した川向は、最後の2分しかグランドに立っていない。
トーナメントは一発勝負。勝ち点を意識する必要は無いため、ペナルティゴールを重視することはよく見られる。また、プレイ中のキックも多くなるため、その精度が勝敗を左右する。本稿では、キックに関する3つのスタッツから、この試合を掘り下げていきたい。
スタッツ1 –トーナメントではキックが増える
(表1)
表1は、準々決勝1日目の2試合と、2019年のワールドカップのグループステージとトーナメントにおけるキック数である。
常にキックが多いパナソニック以外は、概ね50%増である。トライを狙って自陣から攻めるのは、リスクがある。反則を犯せば、相手にペナルティゴールで3点を取られる。それなら、キックで陣地を取ろうという選択になる。
この試合では、ドコモ15番マーシャルのハイボールと、9番ペレナラのボックスキックが目立っていた。どちらも再獲得を狙ったキックで、マーシャルのキックは10回のキックのうち3度再獲得に成功し、トライにもつながった。
スタッツ2 –転がすキックは、良いキック
(表2)
表2は、両チームのメインキッカーによるキックの結果である。トヨタはCronjeとLe Rouxの2人。この試合、トヨタはPKも含めて30本蹴っているが、そのうち27本がこの2人である。この結果を見ると、ドコモでは3回あったOwn Player Collected(再獲得)は0である。
他方、ドコモよりも多いのはCollected Bounceである。これは「バウンドして、相手が捕球した」を意味する。
直接取らせずにバウンドさせる。これには高いキック技術が必要となる。狙ったところに落とすコントロールに加えて、相手の頭を越すだけの飛距離も求められる。Cronjeのキックは特にこれが多いのが特徴だ。
スタッツ3 –「がっかりキック」が少ないのは誰か
(表3)
表3は、キックエラー率を示している。キックエラーには、チャージされたキックのほか、ダイレクトタッチや伸びすぎてインゴールを超えてしまったものが含まれる。スタジアムからため息が漏れてしまうような「がっかりキック」である。この試合では、バンクスが3回、マーシャルが1回、会場をがっかりさせた。一方のトヨタは0回だった。
表3は、この試合以前に30回以上蹴った選手をキックエラー率の小さい順に並べている。その2位と4位にこのトヨタの2人がいる。パナソニック勢も3人入っているが、トヨタ勢よりもエラー率が高い。キックエラーには個人の技術以外の要因も考えられるが、トヨタの2人が安全性の高い「トヨタ品質」の持ち主だということは言えそうだ。
トヨタの次の相手は、パナソニック。キックが多い相手だけに、ルルーの先発出場が予想される。彼らの質の高いキックに注目したい。