(コラム45-2)インプット・ルーティンを読んで

「インプット・ルーティン」を読み進めるうちに、元上司Aさんの言葉が心に浮かぶ。

「クリエイターは1人でいた方が良い。結婚するとダメになる」

当時、私は25歳。結婚など遠い世界だったので、「そんなものか」程度の認識だった。Aさんは、当時としては非常に珍しい女性のクリエイティブ・ディレクターで、業界のパイオニア的存在だった。Aさんご自身は晩婚で、お子さんはいなかった。独身時代に仕事に没頭した日々と結婚後の生活を振り返り、クリエイティブであり続けるためには、1人でものを考えたり、インプットする時間が必要だと実感されていたのだと想像する。

本書の内容も同様で、「良いものではなくすごいもの」や「自分を賢くするもの」だけを、習慣化してインプットし続けることを推奨している。

ただし、その「習慣」は独身者を前提としているように感じられる。例えば「第一土曜日は美術館めぐりを習慣にする」というのは、子育てをしている人には出てこない発想だろう。親の習慣は、子どもの習い事や気まぐれによって変更を余儀なくされるのだから。

私が広告業界にいたのは3年間のみだったが、その後の仕事の基礎になったと思う。ラグビーを再開することになったので、編集者、続いて教員に転職するも、創作意欲は常にあり、ノンフィクション作品執筆のための取材を続けていた。ただし、子どもが生まれてからは、ラグビーの仕事に専念。クリエイティブな環境からは離れていた。

それだけに、本書に倣ってインプットに励み、もう一度クリエイティブな感覚を取り戻したいと思う一方で、クリエイティブ業界は今もなお「子育てから遠い人限定」なのかと残念に思った。

時代は変わりつつあるのに。

いやちょっと待てよ。それだけで本書を否定するのは勿体ない。自分なりに読み変えていけば良いのではないか。

「土曜朝の40分〜60分」に「音楽インプットのルーティンの時間を設ける」のは無理な話だ。1分も経たないうちに、子どもが邪魔しに来るだろう。では、通勤中の車内なら良いだろう。「自宅でスピーカーを通して、長くゆっくりと集中的に聴くべき」らしいが、車のステレオも悪くないし、邪魔は入ってこない。セカンドベストな選択だ。

「第一土曜日は美術館めぐり」は習慣にはできないが、月に1回、美術館へ行く時間を割くことは可能だ。むしろ月に2回以上行けるのではないか。

著者は、第一線のクリエイターたちとの出会いを通じて感じたものとして、「覚悟」を強調している。

いちばん感じたのは、彼らの「覚悟」の強さだ。「高い山を登るんだ」と覚悟を決めた者の言葉と姿勢を、肌で感じてきた。(p44)

私たちに必要なのは、クリエイティブであることと、豊かな家庭生活を享受するという2つの山を同時に登る覚悟なのだろう。

今日は土曜日で、私が子どもを習い事へ送迎する日だった。これまで待ち時間は、車の中で仕事をしていたが、今日は変えてみた。

車から降りて、歩いて美術館へ。学芸員さんの話を1時間も聞いた。知らないことばかりで非常に疲れたが、充実したインプット時間だった。

自分がこれからどのように変わっていくのか楽しみだ。

参考図書

「インプット・ルーティン」(菅付雅信、ダイヤモンド社)

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