「植松隼人さんの旗」
現在放映中のJcom「ジモトトピックス(大田/世田谷/調布/狛江)」に、手話タグラグビー教室が紹介されている。収録は昨年12月。デフサッカー日本代表前監督の植松隼人さんをゲスト講師としてお招きし、デフリンピックの紹介や、サッカー体験会をしてもらった。
私は大田区に住んでいるが、植松さんはお隣の品川区在住。昨年、大田区内でデフラグビーが合宿をしていた際に、見学に来てくれて知り合った。植松さんはその後、日本代表監督を退任し、今は「サインフットボールしながわ」を中心に活動している。このクラブは、手話で小中学生たちにサッカーを指導している。聞こえない子だけでなく、聞こえる子も所属しており、両者が一緒になって手話べり(おしゃべり)をする。そして、お互いの良さを認め合える環境づくりを目指している。
サッカー体験会で印象的だったのは、フラッグの振り方だ。手話でスポーツの指導をする際には、指示ごとに選手全員を集める必要がある。選手たちが散らばっていては、手が見えない。ただし「集合!」と声をかけても集まってくれない。そこで、手を振るなどして、気づいてもらうことから始まる。
植松さんの場合、手を振る代わりに、黄色とオレンジの派手なフラッグを振り下ろす。その振り方が激しい。バサー!と音が鳴らして振り下ろすと、次の瞬間、バサー!と振り上げる。その姿勢も美しい。直立不動。右腕のみが素早く動き始めると、目を奪われる。
これは指導上の工夫なのだろう。両手をひらひらと振るよりも、こちらの方が気づいてもらいやすい。だから短時間で集合ができる。
植松さんは大変活動的で、現在は品川区公式デフリンピックサポーターも務めている。デフリンピックの認知度向上のため、トークショーやデフスポーツ体験会、SNS等での発信などをしている。いわばデフリンピックの旗振り役だ。
「デフリンピックが終わった後も、聞こえない人と聞こえる人が歩み寄れる社会を作って欲しいなという気持ちがあります」
サッカー体験会の後のインタビューで、そう話していた。
実は今日も、別の番組の打ち合わせのため、植松さんとお会いした。
その席で、植松さんの経歴に関して初めて知ったことがあった。小学生の頃よりサッカーを始め、中学、高校、大学と聞こえるチームで続けたが、ずっと孤独を感じていたとのこと。ミーティングの内容が分からないからだ。
デフサッカーとの出会いは高校時代。日本代表選手として数々の国際大会で活躍した後、指導者へ。2017年より、デフサッカー男子日本代表監督に就任すると、2023年のデフサッカーワールドカップで史上初の準優勝という成績を収めた。
読み取りも口話も上手で、何も言われなければ聞こえる人のように見える。それだけに苦労が多いのだろうと想像する。体験会では「聞こえる人に対しても手話を使う。自分は聞こえない人です、と知らせるため。ずっと口で話し続けられてしまうと、分からなくなる」とも語っていた。
今日の打ち合わせでも、植松さんは「聞こえない人と聞こえる人が共生できる社会作り」について、手話と口話を同時に使って熱弁していた。「デフリンピックの啓蒙だけをしているわけではないんです」とも。植松さんからは、いつも溢れんばかりのエネルギーを感じる。
植松さんは、共生社会の旗振り役でもある。
グランドでの力強いフラッグの上げ下げは、同じ境遇にいる人たちの孤独を振り払うと同時に、鼓舞する応援旗の役割を果たしている。
番組は「ど・ろーかる」というアプリで視聴可能。
番組名「ジモトトピックス(大田/世田谷/調布/狛江)」20分50秒ごろから始まります。