ホームチームの勝率が良い、本当の理由(3)

ホームチームの勝率が良い、本当の理由(コラム48-3)

押し寄せるデータと検証

なんでこんな「変な」タイトルにしたのだろう。

「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」(ダイヤモンド社,2012)の最初の感想だ。原題は「Scorecasting」。Scoreは「得点」、Castingは「役の割り振り」といった意味がある。「得点操作」のようなタイトルの方が良かったのでは。

しかし、再読してこのタイトルは正しいと知った。本書には、次から次へとデータが出てくる。「もう分かった、もう十分だ」と言いたくなるくらいデータによる検証が押し寄せてくる。つまり、このタイトルは読者への注意喚起なのだ。これは「データオタク」による本ですよ。そのつもりで付き合ってね、と。

さて「ホームチームの勝率が高い、本当の理由」を、本書は「審判のバイアス」と結論づけている。その上で、検証が息つく間もなくやってくる。以下、できるだけ簡略化して紹介する。

まずはサッカーの検証では「ロスタイム」に注目している。サッカーの審判は、ロスタイムの制度を利用して、試合時間を伸ばしたり、減らしたりできる。スペイン一部リーグ、ラ・リーガ750試合を調べたところ、接戦でホームチームが先行する展開だと、審判はロスタイムを短くして、試合を早く終わらせる。逆に追う展開だとロスタイムを長くなる。1点差の場合、前者は平均2分ちょっと、後者は4分にもなる。同点の場合は3分ほど。スペイン以外の国でも同様だ。

野球ではどうか。バッターが見送った投球に焦点を当てる。それが果たしてストライクと判定されたのか、ボールと判定されたのか、それが問題である。地元選手がバッターの場合、ストライクになるケースはずっと少ないことが分かった。興味深いことに、試合が接戦であるほど、ストライクは少ない。これはどういうことなのか。

次はアメリカンフットボールの審判だ。NFLの反則数を調べたところ、地元チームは1試合につき、相手より0.5回少ない。それだけではない。野球と同じように、より重要な場面で、判定の偏りがひどくなるのだ。

「もう分かった。そろそろ結論に移ってくれ」と言いたくなるが、まだ終わらない。

続いてはバスケットボール。この競技は、あらゆる場面で審判が反則を取ることができる。その中でも重要なのは、ボールの支配権が移る反則だ。NBAでは、この種類の反則の判定が、ホームチームに有利な形で下る割合が4倍も多い。

とどめはアイスホッケー。NHLでは、地元チームの反則は20%少なく、ペナルティボックスに入っている時間も短いそうだ。

審判だって人間。無意識に観衆の影響を受けている。

「審判のバイアス」は確かに存在する。ここまでの検証で十分に伝わってきた。しかし、どうして起こるのか。審判はわざとやっているだろうか。

そうではない、ということを心理学の面からアプローチしている。心理学者によると、「社会」が及ぼす影響は強力であり、人間の行動や判断を左右する。そして、本人はそのことに気づかないことがある。心理学者たちは、この影響力を「同調」と呼ぶ。

この場合の「社会」は、スタジアムにおける大きな集団、つまり観衆だ。審判たちは観衆の意見に、知らぬ間に同調してしまう。集団が大きいほど、その傾向が強まる。つまりスタジアムが満員であるほど、地元に有利な判定となるのだ。

地元での勝率が最も高い競技はサッカーだ。つまり、観客数の影響が一番強い競技ということだ。影響力が一番弱いのは野球。他のスポーツはこれらの間にある。ラグビーは、サッカーに次ぐ2番手だ。番狂せが起こりにくいスポーツとされているので、これは少々意外だ。強豪国は敵地でも安定して勝っているイメージがあるからだ。しかし、ここにはもう一つのラグビーの特徴が関与しているのだろう。ラグビーは、レフリーの判定が勝敗に強く影響するのだ。

話をデフラグビーのセブンズ世界大会に戻そう。2026年の日本大会で、ホームアドバンテージを活かすには何をすれば良いのか。

この報告を参考にすべきこと、逆に参考にすべきでないことが見えてきた。

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