クリエイティブブリーフ(コラム52-1)
3月に日本ラグビーフットボール協会主催のアナリストセミナーの講師を務めることになった。昨年に引き続き2回目。私よりも適任者は数多くいるのだが、リーグワンはシーズンの真っ只中。現役アナリストたちは多忙であるため、私に声がかかったようだ。
昨年に続き、宮尾正彦さん(ブレイブルーパス東京ヘッドアナリスト)と二人で担当する。昨年は宮尾さんがアナリストの役割や撮影方法などを解説。私は、実践編として過去の事例を紹介した。高校ラグビー部のコーチ時代に選手と一緒に行った分析や、デフラグビーのフィジー遠征前のチームの現状分析などを扱った。
さて、今回はどうしよう。私は現役のアナリストではないから、新たな事例はない。ただし、学生アナリストをサポートする事業をしている。
この事業では大学ラグビー部と契約しており、月に1回、学生アナリストたちと面談し、アドバイスをする。まもなく契約2年目が終わる。1年目は、宮尾さんが昨年のセミナーで扱ったような「アナリストの役割」や「撮影の方法」を説明することが多かった。今年は、より突っ込んだフィードバックができた。ペナルティスタッツをどう活用するか。レフリーをどうやって分析するか。相手チームのスタッツをどう読み解くか、などなど。
学生たちが自主的に取り組めるような指導をしており、私自身が手を動して分析をすることはない。学生自身が考え、失敗しながら学んでほしい。その内容を、次に続く後輩たちに伝えていってほしいと思っている。
だから、学生が作ってきたものをダメ出しすることは、ほぼ無い。ただし、昨年はシーズン最後に1件だけあった。それは入替戦用のモチベーション映像である。
大事な試合を前に、選手たちが奮い立つような映像集。このような映像をモチベーション映像と呼んでいる。
この映像作りもアナリストの仕事なのだが、非常に時間がかかる。過去の試合の中から名場面を選び出し、つなぎ合わせていく。音楽も自分で選び、これに合うように映像を調整する。大変ではあるが、クリエイティブであり、やっているうちに楽しくなっていく。選手たちに大きな感動を与えたいという気持ちになる。
「これはダメだね」。学生アナリストが時間をかけて作ってきたモチベーション映像を、確認すると、私はそう告げた。
何がダメだったのかというと、分析作業で出た答え(どうやって攻めるか)と、映像が食い違っているのだ。分析では相手のスクラムは強いので、すぐに出そうと決め、そのための練習も重ねてきた。その一方で、自チームが格下相手の試合で、スクラムを押す場面が映像に登場する。これでは、選手は混乱する。試合結果にも影響をする。
彼らに必要なのは「クリエイティブ・ブリーフ」である。