スクラムペナルティ4回、ノットリリース5回でも、キヤノンが強かった理由(プレイオフ3回戦 キヤノン対パナソニック)

 プレイオフ準々決勝、キヤノンイーグルス対パナソニックワイルドナイツは見応えのある一戦だった。最終スコアは1732とやや差がついたが、前回の対戦(第3節 キヤノン 0-47 パナソニック)からは点差も内容も大きく異なった。

キックが減った神戸、増えたキヤノン

 トヨタvドコモのレビュー(「トヨタ品質」を体現する2人のキッカー)でも見た通り、トーナメントではキック数は増える傾向にある。

(表1)

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(表2)

ただし、このプレイオフ3回戦では例外が見られた。表1にある通り、クボタv神戸では両チームともキック数が減っている。クボタに関しては、前半で退場者が出た影響だろう。数的不利の影響を小さくするためには、ボールを保持するのが得策とされる。一方の神戸はもともとキックの少ないチームで、相手の人数が14人になっても変えなかった。(もし変えていたら結果も違ったかもしれない。この日の神戸は試合開始から落球などのエラーが多く、13回も繰り返した。また、10番が退場した後のクボタは1フルバック【後ろを1人が守るシステム】となっている場面が多く、裏に蹴ればチャンスとなりそうな場面が見られた)

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 キヤノン対パナソニックに目を移すと、パナソニックのキック数は変わっていない。表2にある通り、パナソニックはリーグで一番キックを蹴るチームであり、その数はプレイオフでも変わらない。一方のキヤノンはリ13回多く蹴っている。ここに、この試合の質を高めた要因があると考える。

 キックの結末に違いあり

 表3にあるキックの結果を見てみると、その違いがよく分かる。パナソニックのキックは、Caught Full(相手に直接キャッチされたキック)が10回に対し、Own Player Collected(味方がキャッチ)あるいはOpposition Error(相手がミス)によるボール再獲得は1回にとどまる。一方のキヤノンは再獲得が7回もある。

 例えば、22分のキヤノン自陣深くでの場面。10番田村がパナソニックBKラインの裏に転がし、13番クリエルが再獲得してラインブレイク。ラックから出てきたボールを、再び田村がパナソニック陣深くに転がしていた。46分には、敵陣10メートル付近の左スクラムから15番小倉が相手陣深くに転がし、これも再獲得すると、10番田村のトライにつながった。

(表3)

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 キヤノンのアタックにはこうしたシーンが数多く見られた。いずれも、上がりの速いパナソニックディフェンスの裏を狙ったキックであり、再獲得後に、慌てて戻るディフェンスの裏にもう一度蹴るのも有効だった。

 相手の強みを消すキック

 キックには、もう一つのメリットがある。それはボールを一旦手放すことで、ボールを奪われる機会(ターンオーバー)を減らせる点だ。パナソニックは、ターンオーバーやキックリターンなどアンストラクチャーアタックが得意である。リーグ戦では、平均43%を大きく上回る62%がアンストラクチャーだ。中途半端なキックや、闇雲にアタックを継続することは、相手に機会を与えることになる。

 その点、相手と追いかけっこをするようなキックであれば、仮に再獲得できなくても、相手の強みを消すことになるのだ。

 とはいえ、この日キヤノンはノットリリース(ブレイクダウンでの反則)を5度取られ、スクラムでは4度ペナルティを取られるなど、力の差は散見された。もしボールを保持し続けたらこのような質の高いゲームにはならなかったのではないか。

 土井崇司氏は「もっとも新しいラグビーの教科書」の中で「四分六の力関係でも勝てる戦術、戦い方をチームに落とし込むのが、指導者の仕事」と述べているが、キヤノンの戦いぶりは、その言葉そのものだったように思う。

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