クリエイティブブリーフ(2)

クリエイティブブリーフ(コラム52-2) 

私が教わった「クリエイティブ・ブリーフ」とは、広告制作における確認書である。広告制作者が、広告のターゲットや目的、目指す効果などを広告主と共有するものだ。制作物のイメージやトーンアンドマナーが含まれることもある。

広告代理店にいた頃、あるテレビCMの企画を勝手に考えたことがあった。広告主は、外資系の損害保険会社。商品は、インターネットや電話で契約を行うダイレクト型自動車保険。訴求ポイントは、利用者の好みに合わせた保証を割安で提供できるという点だった。しかし、当時の自動車保険は対面営業が一般的で、ダイレクト保険は「担当者の顔が見えないから不安」という声もあった。そこで元プロテニスプレイヤーのA氏を同ブランドのエンドーサーとして起用し、同氏の知名度を活用して、信頼性と割安感をアピール。電話やネットによるアクセスを獲得することがテレビCMの目的となった。

当時の私はコピーライター見習い。テレビCMの制作チームには入っていなかったのだが、テレビの仕事は魅力だった。そこで毎晩残業をして、勝手に絵コンテを描いていた。とびきりの企画を考えて認められたいと張り切っていた。

数日が経った頃、上司が私の机にやってきて、「毎晩何をやっているの」と聞いてきた。私はチャンスだと思い、絵コンテを見せた。喜んでもらえるだろうという私の予想とは反対に、上司の顔色は険しくなり、私が説明を終える前に叱られた。「こんな無駄なことをしていてはいけない!」と。

絵コンテはたくさんあったと思うのだが、覚えているものは次のような内容だった。場所はテニスコート。A氏は外国人選手が試合をしている。A氏はぴちぴちのショートパンツを着用していて、シャツは行儀良くパンツに収まっている。対する外国人選手は、シャツもパンツもダボダボ。試合は見事にA氏が勝利。カメラはA氏の下半身を映し出し、「保険もパンツもピッタリが一番」「あなたのニーズにぴったりの保険」のようなコピーが入る。

実に恥ずかしい。さらに恥ずかしいことに、20代前半の私は、これは誰が見ても面白い企画だと疑わなかった。だから、なぜ叱られるのか分からなかった。この人は世代が違うから面白さがわからないのだろう、とさえ思った。それを見越したのか、上司は私にこう諭してくれた。「この広告の目的は何か?トーンアンドマナーは合っているのか?」と。

広告の目的の一つは、信頼性の醸成だ。自分が描いた絵コンテは、信頼性とは無縁のものだった。

話を戻そう。私もまた、学生アナリストが作ったモチベーションビデオに対して、ダメ出しをした。制作者であるアナリストは、選手たちが面白いとか格好良いと感じるものを作りたいと思う。これは当然だ。しかし「面白い」とか「格好良い」は主観であって、人によって異なる。したがって、コーチから「これって面白くないよね」と言われてしまったら、作り直しになる。これは時間の無駄であり、チームにとって損失だ。

これを避けるために、ラグビーの現場でもクリエイティブ・ブリーフのようなものが必要だと思う。この場合、広告主はヘッドコーチだ。私自身、これをやったことがある。しかし、シーズン中のコーチは忙しい。映像が出来たら見せて、と言われることもあった。いちいち確認するのが面倒なのだ。ここで負けてはいけない。簡単でも良いので目的やイメージは共有しておくべきだ。

それが映像制作者を助けることになるのは、ラグビー界も広告界も同じだからだ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加