ワイルドナイツは強い。そして面白くない。

ワイルドナイツは強い。そして面白くない。(コラム54) 

相手の反則を待っている

リーグワン第7節、埼玉ワイルドナイツ対ブレイブルーパス東京は28対28の同点に終わった。

ワイルドナイツは強い。そして面白くない。試合後に、改めてそう思った。

その戦いぶりは、卓球の「カットマン」である。守備を重視し、粘り強くラリーを続けて、相手のミスを待つ。華のある一流選手たちが、この面白くない戦術を着実に遂行するので、華やかに見えてしまう。負けないラグビーを追求した結果、つまらなさを隠すほどのレベルとなっているのだ。

個人的に、ワイルドナイツの試合を見て、ワイルドナイツに肩入れしたことは一度もない。正直に言うと、いつも負けて欲しいと願っている。圧倒的な強さには、憎たらしさがつきものだ。今日の試合も、ブレイブルーパス寄りの視線で見た。

この2チームは対照的だ。ジャージはワイルドナイツが青で、ブレイブルーパスは赤。守備では、青のジャージは波が砂浜に寄せるように、ゆるやかに上がる。赤のジャージは、火柱が立つかのように飛び出してくる。攻撃になると、赤は多彩なパスとランで切り開く。青はパスよりも突進で押し切ろうとする。

前半32分から、ワイルドナイツが敵陣で連続攻撃を仕掛ける。彼らの基本的な攻撃は、9番からパスを受けたフォワードが突進したり、短いパスをするもの。9シェイプとかオフ9などと呼ばれる。この時の攻撃は13フェイズが続いたが、私が見た限り、全てがダイレクトプレー(パスがスクラムハーフからの1回だけ)だった。単調な攻撃であり、ブレイブルーパスの守備の硬さもあって、トライにはつながらない。しかし敵陣でこれを続けるうちに、0対7だった試合は、いつの間にか9対7とワイルドナイツが逆転していた。この攻撃は単調なだけにミスは起こりにくく、相手の反則を誘いやすいのだ。

一方のブレイブルーパスの攻撃は、10番が起点。10番の横にいるフォワードが突進したり、さらにその外にいるバックスに回して突破する。10シェイプ、あるいはオフ10と呼ばれる。こちらは、ミスをするリスクはあるが、ボールがよく動くので見ている側は楽しい。何しろブレイブルーパスの10番は、世界最高の司令塔リッチー・モウンガだ。面白くないわけがない。

相手のハイボールを待っている

キックの使い方も対照的。強風だったこの日、前半風下だったワイルドナイツは、ハイボール(高く蹴り上げるキック)を多用。風上のブレイブルーパスはロングキックを蹴っていた。前半35分、リッチー・モウンガが、この時は中央にハイボールを蹴って、自らが追う。しかしボールは青の9番小山がキャッチして、カウンターアタックが始まる。「ワイルドナイツは相手のハイボールを待っている」と、知り合いのアナリストが以前力説していた。青のバックスリーは深くに下がっていて、ディフェンスラインとの間に距離がある。攻める側はここを狙って、高いボールを蹴りたくなる。キャッチできればチャンスとなるが、相手に取られると、ディフェンスラインを揃える暇がないためピンチとなる。この機会を虎視眈々と待っているワイルドナイツ相手では、大きな痛手となる。この場面でも同様に、このハイボールをきっかけに、トライを奪って16-7とリードを広げた。

後半になると、風下のブレイブルーパスは自陣からも攻め始める。失点につながったハイボールはその後一度も蹴らなかった。

 「負けない青」と「攻める赤」

最後の15分は「リスクがあっても攻め続ける」ブレイブルーパスに対して、「相手の反則やミスを待ち、隙をついて攻める」ワイルドナイツという構図。流れは二転三転しながら、結局同点のまま試合終了となった。

「リスクを背負って攻めるラグビー」が、「負けないラグビー」をあと一歩まで追い詰めた、というべきか。「負けないラグビー」は、やはり負けなかったというべきか。

ワイルドナイツは、リーグ戦を負け知らずのまま進むと予想する。スター選手たちが、規律よくディフェンスで粘り続け、リスクの少ないアタックを続ければ、負ける可能性は少ない。一方のブレイブルーパスは、10番リッチーの調子次第という面がある。ブルーレブズ戦の敗戦は、彼の不調が大きな要因の一つと見ている。

プレイオフで「負けない青」を破るのは、「攻める赤」なのか、それとも別の色なのか。今から楽しみである。

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