『ラグビースキル、整いました』ができるまで(コラム55-1)
自営業だからできた仕事
20代に出版社で1年、広告代理店で3年の会社員生活。30代には7年間の教員生活。それ以外は、ずっと個人事業主として働いてきた。一昨年、法人化したので、今は経営者でもある。ただし、従業員は私だけ。書類には「自営業」と記載することにしている。個人事業主は少し頼りない感じがするし、経営者とするのはおこがましい。あいだをとって「自営業」が良い。
自営業で良かったと思うことは、毎日ある。逆に、嫌だなと思う瞬間は、運の良いことに今はない。周囲の皆さんのおかげで、なんとか暮らしていけているからだろう。
仕事を自分で決められる。これが私にとって最大の利点だ。会社員や教員では、そうはいかないので、嫌になって転職してしまうことが多かった。今は転職をするのではなく、事業内容を増やしていけば良い。法人化にあたり、事業内容を明示する必要があった。知り合いの司法書士より、可能性のあるものは全て書いた方が良いと言われたので、ラグビーの指導や執筆に加えて、飲食店経営、さらには銭湯経営まで書いた。いずれやりたいと思っている。
スケジュールを自分で決められる。これも利点の一つだ。年間スケジュールに始まり、週のスケジュールや日々のスケジュールも自分で決められる。いずれは、引退だって自分で決めることになるだろう。
スケジュール帳には、ほぼ毎日、12時頃に「サ」の文字が書かれている。ランチ前のサウナタイムだ。サウナに入ると、頭の疲労がとれ、新しいアイデアとやる気が湧いてくる。心強い存在だ。さらに昨年は、サウナが直接的に、新しい仕事につながった。
24年3月上旬に、某専門誌の編集部より、ラグビースキルに関する記事を毎月連載しませんか、という話が来た。歴史ある雑誌からの依頼であり、ラグビースキルは私が2019年から大学院で研究してきた分野だ。以前より、同誌にその研究について記事を書くことがあり、その内容を連載して欲しいということだ。非常に光栄に感じたが、同時に大きな不安もあった。
同誌の読者には、ラグビーファンだけでなく選手、指導者もいる。読者層は大人が多いと思われるが、小学生が読んでいてもおかしくはない。今回の話は、運動スキルを紙媒体で解説するというもの。経験談ではなく、ある程度科学的な内容にする必要がある。ただし、学術的な文章ではなく、小学生でもわかる文章で。これは難しい。
個人の経験を元にしたスキル指導のデメリット
過去の記事では、(1)有名選手の動作を連続写真で紹介したり、(2)実績のある指導者や元選手が自分のスキルを解説するという例が多い。そういう記事はやるべきではない、と私は考えた。
その理由として、以下のようなことを文書にして、編集部に伝えた。
(1)のような連続写真での解説は、読者が理解をするのに大きな負担を要するため伝わりづらい。また、読者の多くは、日常的に動画と接しており、写真での解説は見てもらえないだろう。
(2)のような指導者や元選手の経験に基づく解説は、主観的な側面があり、体格や経験の異なる読者に役立つ情報かどうかはわからない。しかし、読み物としては興味深く、著名な人物であれば説得力もあるため、これを読んだ選手やコーチは、「お手本」として認識してしまいがち。この情報により選手の技術が伸びる可能性はあるが、逆に選手の成長を妨げる可能性も否定できない。
では、どんな記事であれば、今の読者が理解しやすいのか。また一握りの選手でなく、幅広い選手にとって有益な情報となるのか。連載スタートまで、あと3週間ほどだった。時間がない。
私のサウナ滞在時間は、日毎に増していった。