『ラグビースキル、整いました』ができるまで(コラム55-2)
サウナは、アイデアがつながる場所。
サウナは過酷である。時に朦朧とするほどの熱さの直後に、痛みを感じるほど冷えた水風呂へ。極限状態である。体はこれに耐えるために、非日常的なホルモンを放出する。アドレナリン、ノルアドレナリン、エンドルフィン。意欲や集中力が増加し、幸福感も得られる。
さらには、サウナの真髄、外気浴へ。水風呂の直後、真冬に風に身を当てる。不思議と寒くない。この時、いわゆる「ととのい」は起きる。『サウナの教科書』(ダイヤモンド社、加藤容崇著)によると、「血中には、興奮状態の時に出るアドレナリンが残っているのに、自律神経はリラックス状態の副交感神経優位になっている稀有な状態」。アイデアが出やすいのは、そのためらしい。
さて、原稿はどうしようか。ラグビースキルに関する科学的な知見を、毎月10ページで紹介する。ただし、学術雑誌ではないので、専門用語は極力使わない。そんなこと、できるのだろうか。
あー、あれが良い。その日、サウナ室→水風呂→外気浴サイクルにおける3回目のサウナ室で思いついた。
漫画だ。
実は前から考えていた。ラグビーを漫画で表現してみたい。ただのスポーツ漫画ではなく、科学的知見を取り込んだ内容で、選手やコーチの役に立ち、ファンには新しい楽しみ方を提供するようなもの。ただし、私は描けないし、描ける人も知らない。今回の企画に関しては、漫画にするには予算が大幅に足りない。
サウナ室は別世界だ。頭の中で勝手に話がつながっていく。(そういえば、A君の弟は漫画家を目指していると言ってたな。漫画家の卵と組めば、予算内に収まることができし、彼にとっても勉強になって良いはずだ)
これはいけそうだ、と心の中でガッツポーズ。サウナ室内の私は、目を閉じて首を垂れ、脱力しているが、胸のうちは踊り回っている。
漫画は想像力をかき立てられる表現。
さらに、昔の記憶がアイデアとつながっていく。
『フットボールネーション』のような漫画はどうだろう。あの漫画は運動生理学の知見を入れつつ、選手やチームのサクセスストーリーを描いている。こちらは運動力学がテーマだ。毎月10ページだけだからストーリーを描くのは難しいが、工夫次第でなんとかなりそうだ。
着替えて休憩室へ。編集部に送る企画書を書こう。いきなり漫画にします、などと伝えたら、拒否されるかもしれない。私は良いと思っても、編集部には別の考えもある。しかも、編集者は編集長へ、編集長は会社への説明を求められるかもしれない。なぜ漫画表現が、この媒体や連載にピッタリなのかを伝えてもらう必要がある。そこで、次のような文章を「漫画表現のメリット」としてまとめた。
(1)有名選手の連続写真は、「正しい技術」を限定してしまうが、漫画表現にすることで、一例として提示することができる。
(2)連続写真と異なり、ストーリーとともに動作を部分的に描くことで、視覚情報の不足を読者自身の想像力で補うことが求められる。
(3)漫画形式は小学生にとっても親しめるものであり、慣れない内容であっても繰り返し読むことができる。
編集部の反応は、悪くなかった。もちろん予算の問題はある。しかし、新しいことをやりたいという気持ちが私と共通しており、無事漫画路線で進めることになった。
では、どんな人物が出てきて、どうやってラグビースキルを伝えるのか。
またまたサウナの登場である。