『ラグビースキル、整いました』ができるまで(5)

『ラグビースキル、整いました』ができるまで(コラム55-5)

 サブスクで月500円

日本大学スポーツ科学部での講演の最後に、約60人の学生にアンケートをお願いした。

(質問1)この漫画はどのメディアに掲載すべきか。

スポーツ雑誌や漫画誌という意見もあったが、大半はアプリ配信や電子書籍。もっとも多い例は、SNSで冒頭のみ公開し、サブスクへと誘導するというもの。

(2)もし有料配信にするなら、いくらが妥当か。

100円から2000円まで様々。最も多かったのは500円。非常に具体的な意見を書いてくれた学生もいた。

「2000円で有料配信。高くても見たい人は見る。高めに設定しないと継続のための資金が足りなくなる」

「500円でサブスク。500円以上の価値があると思った時点で購入される。黒読者を800人まで増やせば、確実な不労所得の完成」

学生の中には、オンラインビジネスを運営している人もいるらしい。そういう話は聞いていたが、実際に会うと刺激になる。

このような感想もあった。「漫画を用いてスキルを磨くことができるのは良いと思った。とても読みやすく、自分に足りない所がわかり、改善に近づくと思った。ただ、基礎的な内容だけでなく、実際の試合で使えるかが大切なので、映像と併用することが大切だと思った」

この講義は24年7月のこと。その後、広告代理店や出版社と相談などしたが、新たな媒体は見つからず。8月からはデフラグビーの海外遠征などで忙しくなり、漫画どころではなくなってしまった。

パスは首振りから

それから半年後の25年2月。土曜日午前中の多摩川河川敷。関東在住のデフラグビー選手たちが集まり、練習をしている。その日は私が指導を担当。3対2の抜き合い練習だったが、パスミスが続いた。デフラグビーの選手たちは、社会人になってからラグビーを始めた人もいる。経験者に比べると、どうしてもパスやキャッチの技術は劣ってしまう。これは聴力とは関係がない。「経験の差」と考えられている。

私は、ある練習を思い出し、パスの練習に切り替えた。

「まっすぐ走って、ボールをキャッチ。すぐに首をターゲットに向けよう」

これを繰り返すうちに、パスはどんどん正確になっていった。

「パスの前には、まず首を振る」。これは、漫画第1話で紹介した論文の結論の一つだ。結果は上々。何よりコーチが、自信を持って選手に指導ができるところが良い。実験を通して検証されているし、なぜ首を振るとパスの精度が向上するのかを理解している。もし、これでも向上しなければ、別のところに注目して原因を探せば良い。なんの検証もなく、指導をするのとは大きな違いである。

この練習で、私は再び自信を得た。連載前の打ち切りでなんとなく自信を失っていたが、やはりスキル漫画は役に立つのだとわかった。選手は向上するし、コーチにとっても有益だ。アンケートにあったように、これに映像を加えるのも良いだろう。「500円以上の価値」を与えて、選手たちのラグビースキルを整えていきたい。

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