おいしい試合。(リーグワン24-25 第8節 BL東京v東京SG)

「一晩置いたカレーはなぜおいしいのか」(稲垣栄洋、新潮文庫)によると、赤は食欲をそそる色らしい。だから、野菜サラダに赤いトマトを添えると、急においしそうに見える。

今のリーグワンの中で、同様の彩りを添えているのは、赤いジャージのブレイブルーパス東京だ。前節は、ワイルドナイツとの首位攻防戦にて、力のこもる同点劇。世界屈指の司令塔リッチー・モウンガは、強烈なチームメイトの味を上手に生かして名勝負を披露した。

今節の相手は、東京サンゴリアス。こちらのチームカラーは黄色。注意を引く色だ。開幕直後はつまずいたが、その後調子を上げて現在2連勝。その勢いは、要注意だ。

赤と黄色は、街中でよく目にする組み合わせであり、牛丼屋や中華の看板の定番カラー。赤のブレイブルーパスvs黄のサンゴリアス。第8節で最も食欲をそそる一戦は、府中市を本拠地とするチーム同士のダービーマッチでもある。秩父宮ラグビー場のスタンドは、7割がホーム、ブレイブルーパスの赤、3割は黄色で埋まっていた。

サンゴリアスの司令塔は2年目の高本幹也。試合開始のキックオフから、攻撃の意思が見られた。短いボールを正面に上げて、208センチのホッキングスを走らせる。中央への短いキックはハイリスク、ハイリターン。ボールを確保する可能性もあるが、相手に捕球されるとピンチとなる危険性もある。ブレイブルーパスがボールをキャッチするが、モウンガは攻撃ではなくキックを選択。ここからサンゴリアスがアタック開始。黄色のアタッカーたちは、ボールをもらう直前から前進し、防御の間を突く。前節の神戸スティーラーズ戦を思い起こさせるような、試合開始直後の連続攻撃。前節は、20フェイズ攻めた末にトライを取り切った。ブレイブルーパス相手にも22フェイズ攻め続けるが、トライはならず。ペナルティゴールの3点のみで終わる。

直後のブレイブルーパスによるキックオフ。サンゴリアスとは対照的に、モウンガは右奥に蹴り込む。ボールを空中で奪うのではなく、敵陣から攻めさせて取り返すことを意図したものだ。狙い通り、キャプテン・リーチのスティールでボールを奪うと13番セタ・タマニバルが、相手14番尾崎晟也を弾き飛ばし、ポップパスを受けた徳永がトライ。直前の攻撃では、執拗に継続したサンゴリアスだが、防御ではあっさりと抜かれる。前半は31-18でブレイブルーパスがリード。タックル成功率はブレイブルーパスが90%に対して、サンゴリアスは75%。後半は、さらに点差が広がるかと思われた。

しかし、後半になると、サンゴリアスはスクラムペナルティを連続して獲得。セットプレイからのサインプレイで2つのトライを返して、31-30。

黄色のディフェンスラインは、全体としてはゆっくり前に出てくるが、チャンスと見れば単独で詰めてくる。赤の料理長、リッチー・モウンガは、これに対してスパイスの効いた攻撃を見せる。後半64分、敵陣ゴール前のラックからボールはリッチーへ。黄色のラインは思い切って詰めてくる。リッチーは、深い位置でボールを受けると、フラットなロングパスで、スピードに乗ったタマニバルを走り込ませる。フィジカルでもスピードでも回るランナーは、タックラーを弾き飛ばしてトライゾーンへ(結果はノックオン)。69分には、リッチーはやはり深い位置でボールを受け、外に待つ5番ピアスへ。相手13番が詰めるが、走り込んできた12番トンプソンへの外にパスが通り、独走トライ。これで38対30。74分にはモールでのトライも加えて43-33。勝負あり。

期待した通り、赤と黄色の対決は、ラグビーファンの食欲を十分に満たす試合となった。試合を通して、同じようなペースで攻撃を続けるサンゴリアスに対して、リッチーは後ろでボールを受けて、より味方を走らせる。自分から前に出ていき、味方が走るコースを作る。あるいは、自分から仕掛けるなど、奥深い味わいの妙技を提供してくれた。ご馳走様でした。

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