セブンズの矛盾。
コラム60
「筋肉痛が増えるにつれて、重要な試合になっていく。このスポーツはちょっと矛盾しているね」
15人制の男子フランス代表のキャプテン、アントワーヌ・デュポンの言葉だ。ファンなら知っての通り、デュポンは地元開催のオリンピックに向け、期間限定で7人制に転向。先の言葉は、24年2月のHSBCセブンズ バンクーバー大会参加後の感想だ。
セブンズの大会は3日間。予選プール戦が、初日の2試合と2日目の第1試合。順位決定戦が、2日目の第2試合と3日目となる。セブンズの試合は7分ハーフ。1日2試合でも合計約30分間だが、試合の強度が高く、翌日も疲労が残る。メダルを争い大会の最終盤だから、最も疲労が溜まった状態である。世界最高のラグビー選手とも称されるデュポンは、オリンピック本番にて、主に後半から出場し幾つもの重要なトライを奪い、母国を優勝に導いた。
同オリンピックでの女子の優勝チームは、ニュージーランド。こちらは2021年の東京大会に続く、2大会連続の金メダル。彼女たちは、筋肉痛とは無縁なのか。HSBCセブンズ2025パース大会2日目ジャパン対NZの試合を見ると、そんな気になる。
ジャパンは、初日のアイルランド、ブラジルを共に7点差の僅差で破り、2日目の初戦、ニュージーランドとの対戦を迎えた。ニュージーランドは長身選手が多く、その差は大人と子どもの対戦に見えてしまうほどだ。
ニュージーランドのキックオフ。右前に蹴り込まれたボールに対して、日本は競るのではなく、後ろに弾いて味方に繋ぐ。長身揃いの相手と競っても勝てない。その前に味方に渡そうという意図を感じた。その後の攻撃では、自陣からショートキックを見せる。過去2試合、1回もキックを蹴っていない。世界王者との一戦に向けて準備をしてきたのだろう。しかし、相手は動じることなく、ボールを奪うと易々とトライゾーンに運んだ。続く前半1分にも、ボールを奪うと、快速ポウリレインがディフェンスの小さな隙間を突破してトライ。前半5分には、今度はニュージーランドがキックを見せる。段違いのスピードでキャプテンのヒリニがトライゾーンでボールを押さえた。ジャパンは2戦目で、ブラジルのエース、コスタに走られ、前半で2トライを奪われたが、後半はノートライに抑えた。後半はブラジル選手の足が止まり、日本は複数人でコスタを止めることができた。しかし、ニュージーランドは全員がコスタ級のランナーだ。前半で0-24と差をつけられる。
後半になると、両チームとも続々と選手を交代させる。ニュージーランドのリザーブ、バハアコロはパワフルなランで連続トライ。ちなみにこの選手は背番号95。これまで見たラグビーの背番号で、最も大きい。セブンズの場合、背番号は持ち番制。もしかして、ニュージーランドには、現在95人まで女子代表の候補選手がいるのだろうか。まさか。でも、この層の厚さからすると、あり得るかも。
ジャパンも試合終了直前に、後半投入された岡元涼葉がラックサイドを抜け、そのまま独走トライ。前向きな形で試合を締めた。最終スコアは5-53。過去2戦の日本は、勤勉さと動き出しの速さでターンオーバーを奪ってきた。しかし、世界王者が相手となると、そのアドバンテージは無くなる。パワーの差で次々とボールを奪われ、本来の攻撃ができなかった。それでも諦めずに奪ったトライは次に繋がるものだろう。大会は、筋肉痛とともに、まだまだ続く。