クロスとスイッチの違い。
コラム61
「クロスとスイッチは違うんですよ」。タグラグビーのコーチから最近教えられた。いや、以前から知ってはいたが、間違って使っていた。
「クロスは、その名の通り十字架を作る。スイッチはバツですね。だから…」。このコーチは、大変なお喋りで話し始めると止まらないので、こちらが言葉でタックルする。
「そうでした。今のはクロスではなく、スイッチですね」
クロスとスイッチ。どちらもアタックムーブの名称であり、選手2人が交差してボールを受け渡すという点では同じ。違いは、走るコースだ。クロスは、ボールを持つ選手(ボールキャリア)が真横に走り、受ける選手は縦に走り込む。スイッチの場合は、ボールキャリアは斜めに走り、受け手も斜めに走りこむ。別名シザース。ハサミのような交差を作るのだ。
7人制でも15人制でも、このムーブは頻繁に使われる。ラグビーのディフェンスは、基本的に自分の前の相手をマークする。クロスやスイッチなどの交差の動きを使うと、ディフェンスのマークが一瞬外れる。あるいは、ズレを生み出し、その隙間を突破する。7人制の場合、選手の数は15人制の半分以下だが、グランドの広さは同じ。したがって、ディフェンスの間のスペースが広い。ズレの幅が大きくなるので中央突破が生まれやすく、そのままトライにつながるケースが多い。
HSBCセブンズ2025パース大会2日目のオーストラリア対日本。オーストラリアの最初の2本のトライは、いずれもスイッチから生まれたものだった。スイッチの受け手であり、そのままトライを奪ったのは、マディソン・リーバイ。身長183センチの長身で俊足の持ち主。わずか15大会で100トライを達成。これはセブンズ史上最速のペースだ。まだ22歳だが、日本戦での2トライで通算182個目となった。
これほどの選手であるから、日本側はマークをする。外に走られないように気をつけながら、間を詰める。すると内側が手薄になるが、そこには味方が寄っているので、走られても簡単に抜かれることはない。しかしスイッチを使われると、マークする選手が代わるのでディフェンス側の動きは止まる。反対にボールを受ける選手は、スピードに乗って走り込んでくる。リーバイのような選手は、スピードがある上、ステップを踏んで、相手をかわすスキルもある。これを止めるのは至難の業だ。長い髪をピンクのリボンで結んだ長身ランナーは、力強く駆け抜けていく。前半は21-0で終了。
後半に入ると、日本は狭いサイドをパスで繋ぎ、ペースをつかもうとするが、ラックを押し込まれてボールを奪われる。ここから2トライを追加され35-0。両チームとも交代選手が入ると、最後の3分間は日本が攻め続けた。日本の中では長身である秋田若菜(165cm)や永田花(168cm)がボールを保持。突破こそできなかったものの、可能性を感じるアタックだった。
なお、セブンズには「アーリークロス」と呼ぶべきムーブがある。敵が近づく前に、ゆっくりとクロスをして、外に数的優位を作る動きだ。これはスピードやパワーよりも、パスで抜こうとする動き。これに対しては、日本はしっかり対応していた。
やはりクロスとスイッチは違うのだ。