リーグ戦のスタッツが反映された試合展開
トップリーグプレイオフ準決勝の第一試合は、パナソニックワイルドナイツが、48対21でトヨタ自動車ヴェルブリッツに快勝した。60分過ぎまでは1点差の接戦だったが、最後の20分で差がついた。
(表1)
表1は20分毎の得失点の比較である。トヨタは前半が強く、後半は失速する傾向にある。パナソニックは逆に、尻上がりに得点を重ねていく。準決勝は、その傾向どおりの展開となった。
ところで、準々決勝でパナソニックを苦しめたキヤノンもまた、リーグ戦では後半の失点が多いチームである。しかし、準々決勝では、後半は14対12(最終スコアは17対32)とパナソニックを上回った。トヨタとキヤノンの違いはどこにあるのか。
「スクラムペナルティ4回、ノットリリース5回でも、キヤノンが強かった理由」で確認したように、この試合のキャノンは、出足の早いパナソニックディフェンスの裏へキックを落とし、再獲得を目指した。
パナソニックの最大の強みはアンストラクチャーアタックと言われるが、キヤノンのキックはこの強みを消すものだったのだろうか。
キックリターンはリーグ断トツのナンバー1
答えを探すために、まずはパナソニックのアンストラクチャーを起点としたトライ数を表2で把握しておきたい。アンストラクチャーとは、ラインアウトやスクラムといったセットプレイ以外の場面であり、主にキックリターン(相手のキックをキャッチしてからの攻撃)とターンオーバーアタック(相手のボールを取り返してからの攻撃)である。
(表2-1 キックリターン)
(表2-2 ターンオーバー)
パナソニックはどちらの1位で、キックリターンに関しては、他を大きく離している。ちなみに、この星印はトップ8に残ったチームである。バラツキはあるが、決勝に進出した2チームが、いずれもトップ2であることは興味深い。
では、準決勝でも、キックリターンからのトライは生まれたのだろうか。
65分のシーンを振り返る。この時はまだ27対21の6点差の状況である。トヨタは、10番クロニエ、15番ルルーという精度の高いロングキッカーを要しており、飛距離の長いキックを多用した。対するパナソニックは、途中出場の山沢を中心に蹴り返す。お互いが5本ずつ蹴り合った末、クロニエのロングキックがインゴールで止まり、ドロップアウトとなる。どちらかといえばトヨタの蹴り勝ちだ。
パナソニックは、強みであるはずのカウンターアタックを仕掛けることなく、陣地取り合戦に徹した。
トライにつながるキックリターンは、どのゾーンから始まるのか
(表3)
これはリーグ戦とプレイオフ2回戦までの、パナソニックのキックリターンからのトライが始まった位置と、そのキックの種類を示している。
13回のうち、最も多いのはBゾーンの6回だが、5回は自陣(Cゾーン)から始まっている。ただし、その内の2回は、パナソニックが蹴ったボールを再獲得した後のトライ(Own Collection)。もう2回は、相手の短いチップキック後のトライ。残り一回は、相手のキックミスから始まった攻撃である。
ここから分かるのは、以下の2点だ。
・自陣22メートル内(Dゾーン)からのリターンによるトライはなかった
・Cゾーンからのトライは、短いキック(チップ)のリターンのみ
長い距離のキックでは、防御側はラインを揃えることができる。ディフェンスが整っていれば、さすがのパナソニックもトライを奪うのは難しい。しかし、チップキックや相手のキックエラー、ハイパントの捕球直後は、攻守が一瞬で入れ替わる場面だ。その場合、ディフェンスラインは揃っていない。彼らの強みはこうした場面で生きる。
ターンオーバーに似た場面でのキックリターン
76分の福岡のトライも、その強みから生まれた。クロニエのハイパントを直接キャッチするとそのままラインブレイクしてトライ。福岡は、キャノンとの準々決勝でも独走トライをしているが、同じようなシーンだった。長めのハイパントを15番野口がキャッチして、福岡にオフロード。そのまま80メートルを走り切っている。
ここまで次の2点が確認できた。
・パナソニックはターンオーバーに似た状況での、キックリターンからトライが多い
・その状況を避けるには、高いキックよりも長いキックが有効だ