たのしいひなまつり
コラム69
2月8日に、手話タグラグビー教室のレッスンがあった。この教室は、座学だけでなく、運動を通して手話を経験的に身につけようというもの。2年前に立ち上げ、スミセイ コミュニティスポーツ推進助成プログラムの助成対象でもある。
普段は、親子15名ほどで賑やかに楽しんでいるが、この日は体調不良などで欠席が多く小学生4人、大人2人だけだった。しかも、体育館が使えないため、中学校の多目的室での開催。私は運動パートの担当だが、この日は1人の受講生となり、普段とは異なる、落ち着いた雰囲気の中、手話の根本にかかわることを学んだ。
この日の手話講師は「ゆんみさん」こと、袖山由美さん。月1開催のこの講座では、最初に季節にちなんだ手話単語を教えてもらうことにしている。事前に私から「春にちなんだ単語はどうでしょう」と相談したところ、「ひな祭りにしましょう」という素晴らしい提案がゆんみさんから返ってきた。(私には、春はひな祭りの季節という発想がなかった)
レッスンが始まると、まず「うれしいひなまつり」の手話歌を習った。父親3名と小学生3名、幼児1名が歌いながら、ゆんみ先生を真似して手と口を動かす。
(1番)
あかりをつけましょ ぼんぼりに
お花をあげましょ 桃の花
五人ばやしの 笛太鼓
今日はたのしい ひなまつり
出だしの「あかりをつけましょ」を、ゆんみ先生は、マッチを擦る動作で表現したので、意外に思った。平安時代にマッチはないのでは?しかし、考えてみれば、雛人形は十二単を着ているが、この歌自体ができたのは明治時代であり、ぼんぼりに明かりをつけているのも明治時代。だから、マッチで良いのだ。「歌を手話に置き換えるには、時代考証が必要」とゆんみ先生。
(2番)
お内裏様(だいりさま)と おひな様
二人ならんで すまし顔
お嫁にいらした 姉様に
よく似た官女の 白い顔
「お嫁にいらした」では、ゆんみ先生は、小指を立てて「女性」を1人登場させると、手前から外へ移動させた。「いらした」は「来た」の尊敬語ではなく、「お嫁に行ってしまった」と捉えたのだ。「単に歌うだけなら、何も考えなくても良いが、手話にするなら解釈が必要だ」というゆんみ先生の言葉にはっとする。
子どもの頃から何度もこの歌を耳にしてきたが、これまで一度もこの歌詞について考えたことがなかった。何となく口にしてきたのだ。手話の場合はそうはいかない。空間を使って表現をするので、言葉を自分なりに捉え直して、配置することが求められる。そのため、時代考証や自分なりの解釈が必要となる。
以前のレッスンでは、ゆんみ先生は、手話で暮らす人は「マンガ脳」を持っているとも言っていた。常に頭の中に絵があるのだという。この講座のもう1人の手話講師、民部愛紀さんも、その通りだと言っていた。
この手話教室や、デフラグビーの活動で、私は頻繁にろう者と接しているが、この「マンガ脳」の感覚はいまだにイメージができない。