失敗と気づいたモチベーション映像 2

失敗と気づいたモチベーション映像 2

コラム72-2

3月8日に開催された、「アナリストカンファレンス」(日本ラグビーフットボール協会主催)。「モチベーション映像の作成方法」を担当する私は、まずはプロフィールの紹介から始めることにした。その際に、ラグビー以外の職歴、特に広告代理店にてコピーライターをしていたという経歴を強調した。わずかであるがテレビCMも担当したことがあり、ビジネスとしての映像コミュニケーションを経験していることを紹介した。

次に「クリエイティブブリーフ」を簡単に解説。これは広告会社が、広告制作を始める前に、クライアントと確認する文書である。さまざまな項目があるが、広告の目的や、どうやってそれを達成するのかを論理的に記述する。これには広告効果を高める狙いの他に、制作後の作り直しを避けるという目的もある。

広告制作者とアナリストの共通点

ラグビーチームのアナリストにとってクライアントとは誰か。それはヘッドコーチである。だから、まず映像を作る前に、映像の目的、選手にどんな変化を期待するのか、どんなトーンが良いのか、を話し合うことが重要だ。

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私はこの作業を大切にしてきたのだが、先に述べたパナソニック戦の前はこの手続きが欠けていたように思う。パナソニックに勝ちたいという個人的な感情に引っ張られ、きちんとしたプロセスを踏んでいなかった。ヘッドコーチとの話し合いはあった。ただしヘッドコーチの認識は、このカップ戦ではそこまでの準備は必要ない、というものだった。私は作らせてほしい、と押し通した。勝ちたいという気持ちだけでなく、「初戦に番狂せは起こる」という自分のコンセプトで映像を作ってみたいという衝動もあった。

映像は手が込んでおり、数名の選手は涙を流していた。しかし、セミナーの準備を通して、これは失敗だったと再認識した。

選手目線で考えて分かったこと

クリエイティブ・ブリーフでは、広告のメッセージや、そのメッセージを信じさせる根拠も記述する。この映像のメッセージは何だろうか。ありていに言えば、俺たちにも勝つチャンスがある、だろう。スポーツ界には初戦のアップセット例が多い。これが根拠である。

この映像を見た人は、試合に興味を持ってくれるだろう。だからプロモーション映像としては秀逸だ。しかし、試合の当事者はどうだろうか。登場する映像は、有名なものばかりだが、自分たちのものではない。他人の実績であって、自分たちの実績ではない。だから、本当の意味で、選手たちを支える根拠とはなっていない。制作から6年が経っているが、今回初めて選手の立場になってみて、それがわかった。

このモチベーション映像は失敗例だと考える理由は他にもある。実は、この試合でパナソニックは若手主体のチームを出してきた。対するこちらは実績のあるベテラン揃い。仮に勝利したとしても、アップセットとは呼べなくなっていた。また、映像の中に、リオオリンピックで、日本がニュージランドに勝つシーンを入れたが、この時の対戦相手の1人が、当時日野に在籍していた。これでは、モチベーションを上げるどころか、下げてしまうことになる。そして、試合結果も期待したものとはならなかった。

逆向きのモチベーション映像

もちろん敗戦がこの映像のせいだったという気はない。ただし、勝利に近づくための最後の一押しであるべき映像が、逆向きに働いてしまった可能性はある。その要因は、自分の独りよがりであろう。自分の力を見せてやりたいと独走してしまった。その結果、間違った方向へ行ってしまったのだ。どんなに良いアイデアを思いついたとしても、チームと相談し、方向性が合わなければ、そのアイデアは捨てるべき。広告も、モチベーションビデオも同じである。

「準備の段階で、自分にとっても大きな学びがあった」というのは、セミナー講師が最後に挨拶する時の常套句だが、これは正に今回の私に当てはまる。成功だと思っていた仕事から、失敗の要因を知ることができたのだから。

春は映像の季節。卒業生向けに、名場面集映像を作るコーチは多いはず。映像編集はやり始めると時間を忘れる。そして時間をかけるほど、後戻りができなくなる。どうか皆さん、仲間と相談しながら制作してください。

(アナリストカンファレンス問答集へ続く)

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