(テレビのハーフタイムスタッツ。一番上がラインアウト情報。成功率はサントリーが89%、クボタが80%ということが分かる)
成功率よりスティール率が勝敗に関与する
テレビ中継を見ていると、ラインアウト成功率がよく紹介される。これは、ボールを確保した割合なのだが、この数値はチームの成績とはあまり関係がない、という報告がある。(Migdalski et al.; 2019)
プレミアシップ2016-17年の上位4チームと下位4チームのラインアウトのパフォーマンスの比較したところ、上位グループのラインアウト成功率は87%、下位グループ85%と大きな差はなかったのだ。その一方で、ラインアウトスティール率には差がある。上位グループは平均17%に対して、下位グループは9%であった。
成功率に、ボールの質は問われない。取りやすいフロントボールであっても、ファンブルした後の獲得でも成功とみなされる。したがって、これが必ずしも勝利数とリンクしないというのは理解できる。
一方、スティールとは相手ボールを奪うことである。こちらは相手の攻撃機会を、自分たちの攻撃機会へと変えるので、これは勝敗に大きな影響を与えそうだ。
トップリーグでは、トップ4のうち2チームがスティール率下位
(表1)
(表2)
では、今年のトップリーグはどうか。
黄色の☆は各カンファレンスの上位2チームで、赤は同下位2チーム。つまり、上位4チームと下位4チームである。表1の獲得率は、先の報告では大差がないとされたが、トップリーグでは上位と下位に分かれているのが分かる。
続いて表2のスティール率は、上位チームにバラツキが見られる。
この違いをどのように解釈すればよいか。
考えられるのは、トップリーグでは、ディフェンスのスタイルにチーム間で大きな違いがあるということか。ボールをコンテストして奪うよりも、獲得させておいて、そのあとのディフェンスに備える方を選ぶ、ということ。トヨタやサントリーは、それが機能しているから、上位に進出している可能性がある。
あるいは、少々このスタッツを疑ってみることも必要だ。完全にはスティールできなくても、相手にプレッシャーを与えることは重要なスキルだ。これにより、スティール率は低いが、有効な防御ができているチームもあるかもしれない。
サントリー(スティール率10位)対クボタ(成功率1位)の結果は?
さて、トップリーグ準決勝サントリー対クボタ戦は、サントリーのラインアウトの防御がポイントになると予想した。(サントリーの得点力を支える3つのスタッツ)
結果はどうだったのだろうか。
公式スタッツではサントリーの成功率が100%に対して、クボタは85%となっている。サントリーのスティールは2本となっているが、クボタはもっとプレッシャーを受けていたような印象がある。
映像で確認すると、サントリーはほぼ全てのラインアウトでコンテストを試みていた。その結果は次の通り。
・キャッチ後にボールに絡む 2回
・相手にタップさせる 4回(うちワンバウンドしたもの3回)
・フロントボール 2回
・15メートルラインを超えたスロー 3回
成功とされた11本のうち、6本はキャッチの前後のサントリーのプレッシャーにより、ボールが乱れた。残りの5本がクオリティの高いボール(TQB)とすると、TQB38%となる。そのTQBも、2本は有効な攻撃になりにくいとされるフロントボールであった。
クボタの主な得点源は、22メートル内のラインアウトであり、そのうち90%は3フェーズ以内に取り切っていた。(クボタの強さを物語る3つのスタッツ)
1フェーズでこれだけ乱されれば、有効な攻撃はしづらくある。実際、クボタはノートライに終わった。
スタッツには表れない、有効なディフェンス
その一方でサントリーのTQBは、私が数えたところ81%だった。クイックスローを除く16本中、モールでプレッシャーを受けたものが2回、デリバリーが乱れたものは1回のみ。ロングボール3本を織り交ぜつつ、獲得しやすいフロントに9本を集めた。数でも、質でもクボタを大きく上回り、終始を優勢を保った。
スティールはできずとも、キャッチの前後に執拗にプレッシャーをかけて攻撃を乱す。マイボールでは、取りやすいところで獲得した上で、裏の空いたスペースへのキックを効果的に使った。
スタッツには表れないサントリーのスマートさが、クボタの強みを消した試合だったと思う。
(サントリーのディフェンス。ジャンパーの顔の前に手をあげて視界を塞いでいる。これが影響したかどうかは分からないが、ジャンパーはこのボールをクリーンキャッチできずに、タップし、ワンバウンドとなった)