コミュニケーションは根気よく。デフビーチバレー

コミュニケーションは根気よく。デフビーチバレー

コラム76

ビーチバレーはなぜ生まれたのか

デフビーチバレー日本代表、瀬井達也選手の話を聞いているうちに、この競技の由来を知りたくなった。風上はスマッシュが打ちにくい、とか、砂だからジャンプしにくいとか、走ると疲れるとか、色々大変そうだ。だったら、体育館でやればいいじゃないか、とも感じる。でも、ビーチの上というのは良いこともある。その1つは選手生命が長いこと。全日本選手権の優勝者が40代、第1線で活躍している60代の選手もいるらしい。その要因は、故障が少ないこと。体育館で行う6人制のバレーボールの場合、床が硬いので、多くの選手が膝や腰を痛め、30代で引退するのだという。

調べてみると、ビーチバレー発祥の由来は、この競技の雰囲気にぴったりだった。笹川スポーツ財団のウェブサイトにとても分かりやすい解説があったので、そちらを要約する。

1930年代より、カリフォルニア・サンタモニカではレジャーとして、6人制のバレーボールをビーチでやっていた。ポール・ジョンソンという人物と、その仲間3人は、ビーチで他のメンバーを待っていたが、なかなか現れない。そこでダブルスでプレーしたのが始まり。その後、1950年代にサンタモニカで最初のトーナメントが開催され、さらに美人コンテストなどエンターテインメント要素を盛り込みスポーツ・イベントのプロモーションを行ったことで、ビーチバレーは大きな注目を集めるようになった。1996年のアトランタ・オリンピックでは夏季オリンピックの正式種目となり、大成功を収めた。

つまり最初はただの遊びだったのだが、エンターテインメント要素を盛り込むことで、大きく発展したのだ。

選手数と意思疎通に必要な時間は比例する

バレーボールとビーチバレーには、コートの広さやボールの空気圧にやや違いがあるが、ネットの高さは同じ。最大の違いはやはり人数だ。瀬井さんは、中学よりバレーボールを始めたが、社会人になってからビーチバレーに転向。コミュニケーションの面では、ビーチバレーの方がずっとやりやすいと言う。

「6人制バレーボールの場合は他の5人(実際はチームとして12人いるので11人)とチームとして何がしたいのか、自分がどのようなプレーをしたいのかを共有する必要があります。ビーチバレーは交代選手もいないので、意思疎通の相手は自分のペアだけです。バレーボールの場合、一人一人にかける時間は必然的に少なくなってしまうので難しかったです」

6人であっても意思疎通は不可能ではない。でも、人数が多い分、時間をかけなくてはいけない。プロのように毎日一緒に過ごすわけではないので、そこまでの時間はないという事情もある。では、コーチとの意思疎通はどうなのだろうか。

「以前指導していただいたコーチは聴者なんだけど、手話を覚えて指導をしてくれました。ただし、感覚的な表現が多く、何を言ってるのかさっぱり分からない。たとえば、トスのコツを「ボールを持ち上げる」と表現されるんだけど、僕らにはピンとこない。コーチも悩んでいたと思います。そこで「ボールを上に上げる」と表現を変えたんです。そうしたら意味がつかめた。コミュニケーションを重ねることで、色々と分かるようになってきました」

コミュニケーションは、確認しながら根気よく

日本語をそのまま手話に置き換えても、伝わらない。瀬井さん自身、手話を覚えたのは、デフバレーボールと出会った高校時代。手話でのコミュニケーションについて、次のような経験を持つ。

「手話を母語としている人の場合、言葉よりも手話の空間的な感覚で意味を掴むことが多いので、日本語をそのまま手話にしただけでは伝わりません。まずは手話で表現する方法を学んだうえで相手が本当に理解しているかどうかを確認しながら根気よくコミュニケーションを取りました」

瀬井さんは、実に根気強い人なのだ。その彼が「今の若手が羨ましい」と言う。

「バレーボールの経験はありましたが、ビーチバレーとは技術が全然違う。たとえば、バレーボールでは走り込んでジャンプしますが、ビーチバレーではその場で真上に飛ぶ。体の使い方も全然違います。今の若手は、すごく分かりやすい指導を受けていて羨ましいですよ。私たちは、ずっとコーチの言う意味が分からなかったですからね」

瀬井さんの目標は、東京大会でのメダル獲得。ビーチバレーでの過去最高は2024年の世界選手権8位。コーチの指導が理解できるようになり、近年自分の技術が上がってきたと感じている。現在、43歳。前回のデフリンピックでは、最年長選手だった。大会後は、その経験を若手に教える側に転じるのだろうか。

「大会後もビーチバレーはずっと続けると思います。日本代表でやるかどうかは分かりませんが」

そうだった。ビーチバレーの選手生命は長い。そして、瀬井さんは根気強い。コートの内外で、丁寧にコミュニケーションをとりながら、高みを目指していく。

参考資料 笹川スポーツ財団https://www.ssf.or.jp/knowledge/dictionary/beachvolleyball.html

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