20点差を生んだ要因は何か
トップリーグプレイオフ決勝戦は、前半で最大20点差がつく、やや意外な展開となった。終盤にサントリーが追い上げるが、31対26でパナソニックが逃げ切った。
トライ数は、パナソニック3に対してサントリーが4と上回っている。ただし、ペナルティゴール(PG)ではパナソニックが6本中4本成功させたのに対して、サントリーは2本中0本。単純に見ると、PGの差が勝敗を分けたように思える。
ただし、実力拮抗との予想に反し、パナソニックが前半であれだけの差をつけたという点に注目すると、そこに大きな戦術的アドバンテージがあったのではないかと思えてくる。
(図1)
謎を解くヒントとなりそうなのは、キックの数である。プレイの中でのキック数は、両チームとも36本である。リーグ戦での両チームは、1試合平均でパナソニックが28本、サントリーは21本だったので、お互い多く蹴りあった試合だったことがわかる。
パナソニックは前後半ともに18本ずつ、サントリーは前半23、後半13と前半が多い。ボールキャリー数は、パナソニックは95回(前半47、後半48)に対して、サントリーは149回(前半60、後半89)である。
パナソニックは、前後半ともキックもキャリーも同じ割合であるのに対し、サントリーは前半はキャリーとキック両方とも相手を上回っている。しかし、差をつけられた後半には、キックを減らし、キャリーをさらに増やした。
(図2)
図2は両チームのキックの内訳である。右側にあるKick Resultの内容は大きく変わらない。タッチキック(Full Touch)、直接キャッチ(Full Caught)ともに30%程度だ。
アウトサイドBKで蹴ったパナソニック、インサイドBKで蹴ったサントリー
(図3)
次に、キックをした選手のポジションを比較(図3)すると、違いが見えてきた。
パナソニックは、アウトサイドバックス(11,13,14,15)からのキックが14本あるのに対し、サントリーは2本のみ。
サントリーのキックは、9,10,12のインサイドバックスがほとんどであり、中でも10番のバレットが特出して多い。(なお、バレットは60分から15番にポジションを変えているが、15番でのキックは0本)
バレットは世界最高峰のキッカーと言われており、彼にボールを集めるのは当然と思われる。一方でパナソニックの10番松田はキックエラーの回数がやや多いが(「トヨタ品質」を体現する2人のキッカー)、極端に精度が劣る訳ではない。パナソニックのアウトサイドバックスにキックが多い理由は他にあるはずだ。
(図4)
両チームのキックを蹴った位置を見てみると、ゲーム展開がさらに見て取れる。
パナソニックは自陣からのキックが多く、サントリーはグランド全体に散らばっている。パナソニックは、自陣深くからカウンターアタックを仕掛けることは少なく、中盤でハイボールをキャッチした場合が多い(パナソニック相手に有効なのは、長いキックか、高いキックか)。そのため、自陣からの蹴り返しのキックが多くなる。
そうして返ってきたボールをキャッチすると、サントリーは自陣でも時に攻撃を開始した。ただし、中盤で攻めあぐねた挙句、ハイパントをあげる。あるいは、ディフェンスの裏へキックをする。その結果、サントリーのキックは、グランド全面に広がっているのだ。
タッチキックとテリトリーキックの違い
最後に、両チームの白枠の部分に注目してもらいたい。ここにパナソニックのキックが集中しているのが分かる。この図では、青はテリトリーキック(ロングキック)であることを示している。一方でサントリーは、同じエリアでのタッチキック(オレンジ色)が多い。
テリトリーキックとタッチキックは、どちらも陣地獲得のためのキックだが、明確に外に蹴りだしている場合や、プレッシャーがかかった状態で蹴ったボールがタッチに出れば、それはタッチキックと判断される。一方で、敵陣深くに蹴り込むキックがテリトリーキックである。
これらのスタッツから、次のことが類推される。
・サントリーは、自陣22メートル内左側でタッチに逃げるキックを強いられていた。
・パナソニックは同じ位置からテリトリーを奪うキックを繰り返していた。