住み分けのパナソニック、一極集中のサントリー
(図1)
図1は、パナソニックのキック数上位3人が蹴った位置である。自陣において、福岡(11)は左サイド、パークス(12)は右サイド、松田(10)は中央から、というすみ分けが見られる。また、福岡のキックは自陣のみであるのに対し、パークスは50メートルライン付近のキックが多いことも特徴的だ。
(図2)
一方のサントリーは、自陣でのキックの多くをバレット(10)が担っている。右サイドに限って、流(9)のキックが複数見られるが、これは右足でボックスキックが多くを占めている。つまり右サイドのラインアウト、あるいはラックからというスタティックな状況(ボールが止まった状態)からのキックである。中村(12)のキックは敵陣でのキックパス、あるいは自分で捕球を狙う短いキックが多い。
サントリーのキッカーにも役割が決まっているが、自陣から脱出を目的とするキックや、蹴り合いは、ほぼバレットに集中しているようだ。
攻撃的なキックと守備的なキック
両チームのキッカーの役割が掴めてきたところで、チーム全体のキッキングマップに戻る。
前編で、この白枠(自陣22メートル内右側)において、目的が異なっていることを指摘した。パナソニックはテリトリーキック、サントリーはタッチキックである。
(図3)
このエリアは、左ウイング11番の守備位置だが、11番が前線に上がれば、近くの選手がカバーすることになる。サントリーのディフェンスの基本は、2FB(バックラインの後ろに2人の選手を配置するシステム)だ。したがって、このエリアをカバーするのは、江見(11)と尾崎(15)、あるいはバレット(10)ということになる。
この付近で江見がキックをキャッチをして、隣にバレットがいれば、すぐにパスを送り、バレットが長いテリトリーキックを蹴り返すだろう。
では、江見がキャッチできない状況ではどうか。
前半21分のシーンである。ラインアウトからの2次攻撃、松田(10)はパークスへパス。江見(11)は後ろではなく、ディフェンスラインへと上がっている。ボールが外に回るほど、外のスペースを守るために、ディフェンス側のウイングは前に出る必要がある。
パークスは、空いた裏のスペースに小さなパントを蹴る。2FBの一角である尾崎(15)は、慌てて左へ移動するが、捕球した瞬間に、パナソニックのツポウ(14)の激しいタックルを受けた。
サントリーはこのラックに集まり、何とかボールをキープ。パナソニックのプレッシャーからボールを守るため、サントリーはラックに人数をかけていて、この状態から攻撃に転じることは難しい。バレットが右足でタッチキックを蹴った。
(上はパークスのキック、下はバレットのキック。記録上は同じキック1だが、前者はスペースを狙った攻撃的なキックであるのに対し、後者は危機を脱するための守備的なキックだった)
このタッチキックによってパナソニックは敵陣でのラインアウトを得ると、そのアタックで反則を獲得。この日2本目のPGを決め、13対0と差を広げた。
パークスの右サイドからのキックが、エリア獲得と同時に得点にもつながったシーンである。
「パークスの右」はサントリー対策か
パナソニックのキックの特徴は、サイドごとのキッカーの住み分けである。これは、この試合のために準備されたものなのだろうか。それとも、シーズンを通して実践してきたことなのか。
それを調べるために、パークスのキックを、シーズン全体(左)と決勝戦(右)で比較した。
(図4)
どうやら、これはサントリー対策のようである。