ホームチームの勝率が良い、本当の理由(コラム48-2)
観客が何を叫ぼうとも結果は同じ
「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」(ダイヤモンド社,2012)は、少々突飛なタイトルだが、中身は大変興味深い。スポーツの定説を、統計学的手法で次々と覆していく。原題はScorecasting。「得点操作」といった意味のようだ。副題は「今日も地元チームが勝つホントの理由」。
では現状として、どの程度地元チームが勝っているのだろうか。本書では、世界中の主要なプロスポーツを検証している。そのうちのいくつかを紹介すると、
・サッカーの主要リーグ戦ではホームの勝率が60%以上(2000年前後〜2009年)
・ラグビーのテストマッチでは58%(1871〜2009年)
・メジャーリーグは54.1%(1903〜2009年)
・日本のプロ野球53.3%(1998〜2009年)
すべてにおいてホームチームの勝率は高く、最も高いのはサッカーで、低いのは野球である。ラグビーに関しては、調査期間は1871年〜2009年と非常に長い。1995年にワールドカップが始まるまで、ラグビーの国際試合はすべてホーム&アウェイで実施されてきたのでサンプル数はかなり多いはずだ。その中で58%と言うのはかなり高いように感じる。強豪国であるニュージーランドや南アフリカはアウェイでも勝ってきた印象だが、通算すれば他の競技と同じようなものなのだ。
その要因として、私たちがまず考えるのは「観衆の後押し」のおかげで勝っているということだろう。しかし、本書によると「ファンが選手に与えられる影響はとても少ない」らしい。過去20年間のNBAにおけるフリースロー2万3000本の成功率を調査した結果、ホームだろうとアウェイだろうと成功率は変わらなかった。フリースローとは、バスケットボールの試合で反則があった際に、一定の位置から打つシュートである。この場合、相手から邪魔はされない。ただし、ゴール裏のファンは邪魔をしてやろうと、ブーイングやヤジを飛ばしている。しかし、その嫌がらせ行為は全く意味がない、ということだ。
このほか同様の制度として、アイスホッケーの「シュートアウト」、サッカーの「ペナルティキック」、アメリカン・フットボールの「フィールドゴール」も検証したところ、同じようにホームとアウェイで成功率に違いは出なかった。
ちなみに、ラグビーではゴールキックの際に「Respect The Kicker」と電光掲示板に映し出されることがある。キッカーに気遣い、観客へ静かにするよう求めるものだ。ラグビーらしいマナーで、私は好きだが、静かでもヤジが飛んでいても、おそらく成功率には影響はないのだろう。
では、野球はどうか。過去30年間のMLBの投球データ200万球を調査したところ、ピッチャーの球速や変化球の曲がり方には、ホームとアウェイで違いは出なかった。
長旅、日程、試合会場、天候などもホントの理由にはならない
アウェイのチームは長旅で疲れているので、勝率が低くなるのではないか。一方のホームチームは、自宅で十分に睡眠がとれるのだから、優位性があるのだろうと想像するが、これも否定している。
サッカーでいうところのダービーマッチを調査したところ、主催者側のチームがいつもと同じ割合で勝っているからだ。ダービーマッチとは、同じ街を本拠地とするチーム同士の試合である。同じ街同士なのだから、移動時間を含め環境に差はないはずだ。それでもやはり「地元の利」が存在する。
次に検証されたのは、アウェイチームが過密日程だった場合や、本拠地のフィールドが特徴的な場合である。この2つに関しては、勝率に影響を与える場合があるが、それでも大した差ではないようだ。
最後に「天候」の問題が取り上げられる。暑い地域から来たチームは、寒い地域での試合では勝率が下がるのか。逆の場合はどうなのか。NFL6000試合を調査したが、違いはなかった。
さて、ここまでを振り返ると、まず観客の声援は選手に影響を与えない、遠征チームは疲労で負けるわけではないし、気候が地元と異なるから負けるわけでもない、ということが分かった。試合日程や本拠地に不公平な違いがあれば、それは勝率に影響を与えるが、それも限定的であり、地元のサッカーチームの勝率が軒並み60%を超えることの説明にはならない。
本当の理由は何か。それは、ラグビーの勝敗に強く影響を与える要素であるようだ。