(下は日経の「データで見るラグビー」による日本対ロシアのタックル成功率。データがアニメーション化されていて、とても面白い。しかし、これらの数字は公式サイトとは食い違っている。ロシアの成功率が8%も違うのはなぜなのだろう?)
メンバー表から見える数字
いよいよアイルランド戦が迫ってきた。世界ランキング2位の強豪に対して、前回大会同様の番狂わせが期待されるが、メンバー表からは2つの不安要素が浮かび上がる。一つは、主将リーチのベンチスタート。グループリーグでの最強チームを相手にして、チームのリーダーをベンチに置くのは異例である。しかし、数字を見れば納得する。初戦のロシア戦出場70分でタックル4回のみ。キャリー(ボールを持った回数)は8回、総ゲインわずか19mだったのだ。(チームベストの姫野はそれぞれ17回、121m。いずれも公式サイトより)
総キャップ数も不安要素である。キャップとは国際試合の出場回数であり、チームの総キャップ数はチームの経験値の指標となる。先発15人の総キャップ数は409。前回の361からは増加したが、対するアイルランドは740。日本の1.8倍である。
バックスの成功率67%、それでも勝てたのはなぜか。
前回のロシア戦を振り返ると、前向きな数字も出てくる。
(左が日本で、右がロシア。日本のタックル成功率は86%、ロシアは75%だった。公式サイトより)
日本のタックル成功率86%は良い数字である。「85%以上」が良いディフェンスの目安とされる。しかし、内訳を見てみると、楽観視はできない。チーム全体の成功率は86%だが、バックスに限定すると67%と低下する。(フォワードは94%)
バックスの成功率が落ちるのは、一般的な傾向である。バックスの選手の方が守備の範囲が広く、タックルは難しくなる。とはいえ、67%は際立って低い。3回に1回は抜かれているのだ。バックスのタックルミスは、フォワードよりも失点につながりやすい。それでも30対10で勝てたのはなぜか。
成功率の裏に隠れる母数の違い
112回と43回。この試合におけるフォワードのタックル数と、バックスのタックル数である。ロシアの強みはフォワードであり、フォワードのキャリーが多かった。したがって日本のフォワードのタックルが増えた。堀江とラブスカフニがともに18回決めており、成功率はそれぞれ100%と95%。素晴らしい数字である。
一方のバックスはタックル総数わずか43回、そのうち14回がミスタックルだった。もし、ロシアに決定力のあるバックスがいて、より多くのボールをバックスに回していたら、全体のタックル成功率は大きく下がることになるだろう。そして、失点も増えていたはずだ。
(9月25日時点で堀江とラブスカフニは、タックル回数が全体の8位に入っていた)
公式スタッツには現れないもの
今の日本の課題は、ハイボールキャッチと言われている。アイルランド戦に向けての選手選考でも、その点が考慮されているようだ。アイルランドのスクラムハーフはキックの精度が高い。試合の序盤はやはりキックを使うだろうが、日本がキックに備えているようだと、空いた外のスペースにボールを運ぶだろう。その時、バックスが止められるかどうか。これが鍵だと思われる。
10番 田村 40% 2/5
12番 中村 55% 6/11
13番 ラファエレ 50% 2/4
15番 トゥポウ 63% 5/8
こちらがロシア戦で成功率の低かったバックス選手であり、全員アイルランド戦に先発する。必要なのは、チーム全体でバックスの成功率を高めることだろう。全員がタックル後にすばらく起き上がり、再びディフェンスに加われば、人数を増やすことができる。ディフェンスの人数が揃えば、外のスペースが守りやすくなる。
とはいえアイルランドは強力なフォワードを持つ。フォワード戦で劣勢に立てば、起き上がりは遅くなり、次々と突破されてしまうだろう。
心配な数字ばかりを並べてしまったが、ラグビーは数字では測れないスポーツでもある。
「大野均からのメッセージ」を読んで、こういう考えもあるのかと感心した。
そんな歴史の積み重ねを改めて体感したのは2016年、スコットランドとのテストマッチ2連戦だった。13-26、16-21。大野とともにピッチに立ったSH茂野海人、FB松田力也ら若手は、この惜敗がスタートだ。
「接戦からのスタートなら、すごく高いスタンダードにたどり着けるはず。僕の始まりなんて、スコットランドに100点を許した(2004年の)一戦ですよ」
大野均は98キャップで、松田力也は21キャップだが、松田は1/5の経験しかないとは言えない。公式な数字には現れない「チームの経験値」というものは確かにあるのだろう。また、いくらキャップ数が多くても、レベルの低い試合ばかりでは経験値としての意味は薄れる。
自国開催のワールドカップでの1試合は、テストマッチ数試合分に当たるのかもしれない。大声援を背にした日本代表の、計り知れない力に期待したい。