チーム活動における新しい取り組みとしてBIツールを導入した一方、個人としては、ラインアウトスローイングの指導に着手できたことが、このシーズンの成果となりました。
2018年4月から2年間、日本体育大学大学院の阿江通良先生のもと、バイオメカニクス的観点からラグビースキルを研究する機会を得ました。阿江先生は、スポーツバイオメカニクス研究の第一人者で、競技を問わず、様々な業績を上げていらっしゃいます。
修士論文のテーマとして、ラインアウトスローイングを選びました。スローイングは、主にフッカーの選手が必要とされる特殊技術で、経験者以外は教えることが難しいとされています。ただし、試合の勝敗を左右するほどの重要な技術。スローイング経験者でない私でも教えられる指導法を確立できれば、全国の指導者が活用できることになり、競技レベルの向上に貢献できると考えた次第です。
2020年3月に修士課程を修了し、その後日体大ラグビー部にて1年間指導させてもらいました。ただし、最初3カ月はコロナの影響でオンラインでの実施。効率の良いスローイングのメカニズムとは?日本代表レベルのスローワーと自分のフォームはどう違うのか?研究過程で作成したモデル動画を会議アプリ「ズーム」で共有し、選手に問いながら必要な知識を与える。さらに、選手自身が撮影した自分のフォームを比較する。これを繰り返しました。
夏以降は、週に一回のグランド指導へと切り替わりました。ただし、基本的な指導方法は、オンラインと同じです。経験者でない私は、見本はできませんので、動画をとって比較し、選手に問う。あるいは試合でのデータをとって、練習の成果を見せる。こうしたことの積み重ねでした。
この年、関東大学ラグビー対抗戦でスローイングを行なった日体大の選手は2名でしたが、そのうちの1名はスローイング未経験者でした。その選手は、公式戦でTQB(Top Quality Ball=質の高いボール)が80%という成果を出してくれました。(チーム全体では70%)
この経験から得た主な知見は以下の2つ。
・今回のような、モデルを活用した指導の場合、未経験者の方が上達が早い(経験者は、非効率なフォームが身にがついてしまっていることが多く、改善に時間がかかる)
・怪我等の影響で柔軟性に制限がある場合、今回のような指導は効果を発揮しないことがある(まずは可動域を高めることが必要。ラインアウトスローイングにおいては、特に肩関節と胸椎)
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今季、行動に制限のある中で、世界中のラグビーのビッグデータを扱いながら、大学チームの一人ひとりの関節角度といった細部(ディティール)に注視するという、有意義な経験をすることができました。
ビッグデータはすでに商業ベースに乗っており、その利用は増え続けています。一方ディティールの重要性は誰もが知るところですが、ラグビーの現場ではこれまで数値化されず、「掛け声」に終わることが多く見られました。こちらも、テクノロジーの進化により、ようやく研究室を抜け出し、現場へと浸透しつつあります。
選手、同僚スタッフ、アナリスト仲間、研究仲間、家族のおかげで、実りあるシーズンを過ごすことができました。ありがとうございました。
今後もラグビー界に貢献できるよう、努めてまいりたいと思います。
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