ラグビーを通したコミュニティづくり(コラム50-2)
居酒屋で見た光景
夜の練習をコーチに任せて、新年会に出席したのは、これが送別会も兼ねていたからだ。2年前に家族3人で入会したSさん一家。事情により退会することになった。お父さんは、毎回練習を撮影し、楽しい動画を編集してくれた。お母さんはラグビーに強い興味を持ってくれた。息子は泣き虫だったが、泣くのは2回に1回ほどになった。
この席で、Sさん一家について初めて知ったことがいくつかあった。一つ目は、2人とも高度に専門的なキャリアの持ち主であることだ。
なんでそんな2人が大田区に住んでいるのだろう。東京は、職業で居住地が区分けされている都市だ。職業によって住むべきエリアが不文律のような形で決まっている。私の印象では、その夫婦は港区か中央区の人たちだ。
Sさん夫婦には住みたい家にこだわりがあり、それを満たす物件をたまたま大田区内に見つけたのだそうだ。それまで大田区には全く縁がなかった。
会場は居酒屋で、半分を貸し切り状態。大きなテーブルが3つ並んでいる。一つのテーブルをお父さんたちで占めている。6-7人が、何やらずっと話し込んでいる。もう一つのテーブルはお母さんグループ。膝の上には幼児もいる。3つ目のテーブルは、子どもたちだ。私は、子どもたちの相手をしながら、部屋の反対側のお父さんテーブルを眺めていた。
あのお父さんたちは、2年前までは赤の他人。皆、近所に住んでいて、ラグビー経験者も複数人いるが、知り合う機会はなかった。私が、理事長の勧めに応じて、教室を始めなかったら、こうしてテーブルを囲むことはなかった。そんなことを考えていたら、お父さんテーブルからお呼びがかかったので、席を立つと、Sさんが私と交代して、子どもテーブルへと移動した。Sさんは実に子ども好きだ。
私たちはバランス良く生きる世代
そろそろお開きの時間だ。締めの挨拶の際、私から、Sさん一家が退会することを告げた。そして「今後は、ラグビー会員から飲み会会員に昇格です」と皆さんに伝えると、「それって昇格なのか」と突っ込みが入った。多少の笑いも起きた。
「飲み会会員」も「昇格」も咄嗟に出てきた言葉だったが、ぴったりのワードだと我ながら思う。これまでは習い事仲間であり、レッスンで会う「知り合い」だった。今後は用もないのに近所で会い、話をしたり、食事をする「地元仲間」だ。
翌日、Sさんからライングループにメッセージが入っていた。
「近所に知り合いがいるのは大変心強いので、今後は飲み会要員として活動に参加させていただきます!」
25年前の男性コピーライターは「血縁、地縁よりも職縁」と言い切っていた。おそらく職縁以外は必要とされない立場にいたのだろう。年齢的に今は引退しているはずだ。職縁は切れ、地縁の必要性を感じているかもしれない。
私たちは、現役のうちから、血縁も、地縁、職縁も大切にして生きる世代だ。どれか一つに偏ることなく、バランス良く、豊かな関係を作って暮らしていきたい。
そういえば、私の唯一のコピーライター職縁のY君としばらく会っていない。久しぶりに連絡をしてみようと思う。