(コラム34)「楽しい日本」の手話 

日常生活では手話を使う機会があまりないので、NHKサイトの手話ニュース動画を見て、勉強することにしている。

その日のニュースが簡潔にまとめられているし、繰り返し見ることもできるので便利だ。通訳者は日替わりで、それぞれ個性があって面白い。

ただし、政治のニュースなどは専門用語が多く、音声を切った状態だとなかなか理解できない。専門用語や人名などは、指文字といって、音を一文字ずつ表現することがある。これがとても速くて、私はついていけなくなる。

そんな私でも、実に分かりやすい政治ニュースがあった。

本年最初の手話ニュース(1/6)「石破首相 年頭の記者会見」である。

首相はゆっくりと話す人なので、手話もゆっくり。ちゃんとついていくことができる。

速度だけでなく、言い回しにも特徴がある。簡単な内容を繰り返したり、回りくどく説明したりする。通訳側は、これをストレートに伝えてくれる。

例えば、こんな具合。

首相

「今の時点で・・・、連立というものを考えているわけでは、ございません。大連立というものも・・・、考えているわけではございません」

手話通訳者の手話単語

「現在、連立、考えてない」

※これらの単語と一緒に、表情や空間による文法を用いて表現している。

※後半部分は字幕があるので手話は割愛。

その結果、珍しい現象が起きていた。首相の話よりも先に、通訳が終わっているのだ。

実は私も、通訳者の立場で同じようなことをしたことがある。

以前所属していたチームのニュージーランド視察に、英語の通訳として帯同した時のこと。

提携先を見極めるべく、複数のチームを監督と2人で回った。その際、監督は自分たちのチームが目指すもの、今のチームの状況を熱心に相手に説明した。これを毎回、私が通訳した。

回数を重ねるうちに、内容を覚えてしまい、監督の言葉の冒頭を聞いただけで、終わりまで訳せるようになる。すると、監督が話し終える前に、こちらが終わってしまう。監督は不思議そうにこちらを見て、目が合う。

え、俺、まだ話しているのだけど・・・。

今では笑い話である。

ちなみに、首相の会見では、話題の「楽しい日本」計画が登場した。

計画の詳しい内容はよく理解できないし、説得力も感じない。ただし、会見自体の手話は分かりやすく、通訳が早く終わってしまうという、笑いが込み上げてくるものだった。

今年もお世話になります。手話ニュース。

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