受験シーズン到来。入試や面接の話題が増えてくるこの季節になると、教員時代の恥ずかしい出来事が頭をよぎる。
中学校での保護者面談でのこと。
普段は子どもたちで賑やかな教室に、保護者(たいてい母親)と向かい合って座る。椅子を引く音が、響き渡る。冒頭は緊張をほぐすため、生徒の家での様子を訊く。少し打ち解けた頃に、次のような相談を受けることが多かった。
「ウチの子は家で勉強しないのですが、どうすれば良いですか」
「漫画やゲームばかりで、本も読みません」
私は待ってましたとばかり、次のようなことを言っていた。
お母様やお父様は、家で何か勉強や読書をされていますか。ご両親の家庭での様子が、子どもに影響を与えると思います。
正論である。親の背中を見て、子どもは育つ。これを聞かされた保護者は、言葉をのむ。あるいは、苦笑いで返す。こちらとして、良いことを言ったな、という気分。
今思うと申し訳ない。各家庭、さまざまな事情があったと思う。時間の余裕が全くない方もいたはずだ。
年末に、「型破りの教室」というメキシコ映画を劇場で見た。ほとんど期待していなかったが、実に良い映画だった。実際に起きた話をベースにしており、教育に関わる人は皆、多くのことを考えさせられるはずだ。
以下、オフィシャルサイトのあらすじ(要約)。
麻薬と殺人が日常と化したアメリカ国境近くのメキシコの小学校。教育設備は不足し、意欲のない教員ばかりで、学力は国内最底辺。しかし、新任教師のユニークで型破りな授業で、子供たちは探求する喜びを知り、クラス全体の成績は飛躍的に上昇。そのうち10人は全国上位に食い込んだ!
この映画に登場する家庭の親たちは、勉強などしていない。しかし、教師の「型破り」な工夫で、生徒たちの心に火をつける。
教員時代の私は、この映画の中の「意欲のない教員」の1人だったと言える。生徒が勉強しないのは、自分のせいではない。環境のせいなのだと責任逃れをしていた。
私が面談でやるべきだったのは、子どもたちのことをもっと聞かせてもらい、彼らのスイッチがどこにあるのかを考えることだった。
陳腐な自説で、相手を黙らせるのではなく。
後編に続く