失敗と気づいたモチベーション映像 JRFUアナリストカンファレンス

失敗と気づいたモチベーション映像

コラム72-1

日本ラグビーフットボール協会主催「アナリストカンファレンス」に講師として参加した。テーマは「アナリストの基本と映像活用の方法」。私以上に適任のアナリストはたくさんいるのだけど、皆シーズン中で忙しい。そこで、2年連続で私が話をさせてもらうことになった。

開催日は2025年3月8日。その1週間前に、一緒に講師をする宮尾正彦さん(東芝ブレイブルーパス東京ヘッドアナリスト)と打ち合わせ。私の担当は「モチベーション映像の作成方法」について、である。数ヶ月前に打診を受けた際、早目に準備を始めようと心に決めたのだが、結局作業開始は3日前。セミナーの準備は、いつも気が重い。

自分が過去の所属チームで作った映像を見返そうと、クラウドストレージを検索。日野レッドドルフィンズ在籍時代の映像がシーズン毎にまとめて出てきた。こういう時、過去の自分に拍手したくなる。頑張って作ったこと、だけでなく、それらをきちんと整理して保存しておいたことに。時々、それができておらず、過去の自分を呪うこともある。(日野レッドドルフィンズの前に、在籍していた東芝時代の映像は見つからなかった・・・)

ジャイアントキリングは初戦に起こる

数本見てみると、とても懐かしい。当時のことを思い返して、胸が熱くなる。入団初年度、入れ替え戦に挑む前のモチベーション映像。菅平合宿の振り返り映像。そして、練習中のハプニング映像を集めたHino Best Shotsなど。

異色な映像もあった。2019年に実施されたトップリーグカップというカップ戦用のモチベーションビデオ。相手はパナソニックワイルドナイツ。モチベーションビデオは、通常、自分たちの試合や練習のハイライトシーンに、メッセージを載せて編集する。しかし、その映像には、自分たちの練習や試合は一切出てこない。メインとなるメッセージは「ジャイアントキリングは初戦に起こる」。使われている映像は、以下の通り。

・2016年サッカーワールドカップグループリーグ日本対コロンビア

・2015年ラグビーワールドカップ日本対南アフリカ

・2016年リオオリンピック男子7人制ラグビー日本対ニュージーランド

・2006年ラグビー日本選手権トヨタ対早稲田

・1992年大相撲夏場所千代の富士対貴乃花

共通点は、全て大会の初戦であること。そして、アップセットが起きたということ。これを重低音のゆっくりとした音楽に合わせて編集されていた。

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長過ぎるプレシーズン対策の大会

これを作った2019年は、ワールドカップ日本大会の開催年であった。大会に向けて、トップリーグ(リーグワンの前身)はシーズン開始を大幅に遅らせるスケジュールを組んだため、プレシーズンが長くなった。どうせその間に練習試合を組むのなら、カップ戦をしようとして企画されたのが、この大会だった。チームによって受け止め方は様々。若手にとって良い経験になると前向きなチームもあれば、練習試合の延長としか捉えないチームもあった。ベテラン選手にとっては、気持ちの持ち方が難しかっただろう。一応公式戦だが、正式なリーグ戦ではない。ここで怪我をしてワールドカップ後の公式戦に影響が出れば、翌年の契約にかかわる問題ともなる。

日野レッドドルフィンズの初戦の相手は、パナソニックワイルドナイツと決まった。私は、大きなチャンスと捉えた。日野はディビジョン1に昇格して2年目。一方、パナソニックは日本代表に数多くの選手の送る名門。対戦は、カップ戦の初戦。こちらの準備次第では、番狂せを起こせるのではないか。

心を震わせる映像は成功なのか

個人的な思い入れもあった。その3年前のトップリーグプレイオフ決勝。東芝ブレイブルーパスは、一点差でパナソニックに敗れた。当時の私は東芝のアナリストだった。逆転のコンバージョンが左に外れて、優勝が消えた。それ以前も以後も、パナソニックには一度も勝ったことがない。パナソニックを倒す絶好のチャンスが来た、と私は思った。

久しぶりに見たその映像は、丁寧に作られており、作った自分の心も震わせるほどだった。地方での試合だったため、遠征出発前のミーティングで見せたところ、何人かの選手は涙を流していた。

話をカンファレンスの準備に戻す。宮尾さんとの打ち合わせの際、この映像を作った経緯を説明した後、「モチベーション映像の一例として紹介したい」と伝えた。練習や試合の映像を使わないモチベーション映像の例として紹介しようと考えた。もちろん成功例だ。しかし、その後、そうではないと気づいた。

(その2に続く)