手話べってるもん勝ち。デフビーチバレー

手話べってるもん勝ち。デフビーチバレー

コラム75

デフビーチバレー日本代表、瀬井達也選手への取材話の続き。デフリンピック観戦ガイドブック執筆のためのインタビューである。

試合映像を見ていて「これで良いの?」と感じる場面があった。2024年のデフビーチバレー全日本選手権決勝戦である。ビーチバレーは、21点先取で第1セットが終わる。選手たちは、コートの端のベンチに並んで座り、水分補給を行いながら、話をしている。当然、手話で彼らは話す(試合中、補聴器の使用は禁じられている)。その様子は、Youtubeのライブ配信映像に映し出される。音声言語と違い、手話の場合、遠くから撮影していても会話の内容が「丸見え」になる。

対戦相手や観客に見られることは気にしないのだろうか。

「そんな余裕はないですね」と瀬井さん。「それに、国内の試合では、それほどお客さんが入ることってなかったんです。この試合が初めてですね。こんなに入ったのは」

デフリンピックはどうなのだろうか。

「国際試合だから、僕らの手話は相手には絶対にわからない。だから気にしないです」。

なるほど。手話は世界共通ではない。国際手話やアメリカ手話なら別だが、日本手話がわかる外国人は少ない。

では、選手たちは何を話しているのだろうか。

「この時は、風のことを話していました。次のセットはバッドサイド(風上)になるから、ブロックに立たなくてもいいね、みたいなことです」

ビーチバレーは屋外の競技なので、風の影響が大きい。そのため、どちらかが7点、14点を取るたびにコートチェンジをする。風下はグッドサイド、風上はバッドサイドと呼ばれている。風上だとスパイクがオーバーしてしまうから、不利なのだ。

「(ペアを組んでいる)今井選手とは、長年一緒にやっているので、少し話すだけで全てが伝わる感じです」

瀬井さんはそう言うが、映像を見ると、休憩中ずっと話は続いている。カメラが対戦相手のペアに切り替わる。こちらは2人とも俯いていて、ほとんど会話をしていない。これはどういうことなのか。

「思ったより差がついてしまって、ショックなのかもしれません」。瀬井さんは相手ペアを気遣いながら教えてくれた。「彼らは身長は低い分、攻撃のバリエーションが豊富で、トリッキーな動きをしてくるんです。けれど、この試合ではこちらがサーブで崩していて、その攻撃ができていないんです」

勝っている側は、次のセットの対策について話し続け、負けている側は下を向く。素人から見ても、勝敗は明らかに思える。デフビーチバレーでは、休憩中に手話が続いているかどうかで、実力が分かるということはあるだろうか。

「無言になってしまうということは、次のセットで何をすべきか分からないということですね。経験が浅いということは言えるかもしれません」

ビーチバレーはルール上、コーチが試合中に指示をすることはできない。これも、選手たちが手話を見られることを気にしない理由の一つだろう。

デフリンピック会場でも、休憩中に各国の選手が、包み隠さず手話を見せてくれるはずだ。話題はおそらく次のセットの風対策、相手の強み、弱みについてだ。各国の手話の違いを見て楽しむも良し。会話が多いか少ないかで次の展開を占うも良し。

デフビーチバレーならでは楽しみ方を、また一つ見つけることができた。