ブレイブルーパスの「レッドオーシャン」戦略

ブレイブルーパスの「レッドオーシャン」戦略

(リーグワンR12 ブレイブルーパス42-31ワイルドナイツ) コラム78

負けない青と、攻める赤の変化

リーグワン第12節、ブレイブルーパス東京(BL)対埼玉ワイルドナイツ(WK)は、42対31でブレイブルーパスが完勝した。

第6節で対戦した際は両者譲らず28-28の同点。その戦いぶりから、両チームのその後を私は次のように予想した。「WKは、リスクの低い攻撃で守り勝つチーム。今後のリーグ戦は全勝。一方、BLはリスクがあっても攻め続けるチーム。司令塔リッチー・モウンガが復調するかどうかが鍵」(コラム54 ワイルドナイツは強い。そして面白くない

ところが、WKは前節のブルーレブズ戦で今季初黒星。この日の敗戦で、実に20年ぶりの連敗となった。「負けない青」(WK)に何が起こったのか。ポイントは、「攻める赤」(BL)のディフェンスにあった。

7-3で迎えた前半14分、WKが敵陣深くで攻め続ける。このエリアでは、彼らはダイレクトプレイを繰り返す。スクラムハーフから一回のパスで突進を繰り返す。もし防御の注意が前方に集中すれば、裏のランナーを走らせる。ダイレクトプレイはワンパターンではあるが、ミスをするリスクが低い。これを繰り返すうちに、防御側は反則を犯すことが多い。いわば「反則待ち」のアタックである。

しかし、BLのディフェンスは崩れない。反則もしない。タックルしては起き上がる。2人目のタックラーがボールを奪いにいくので、WKにオフロード(タックルを受けながらのパス)をさせず、10フェイズを守りきった。

続く16分には、中盤でBLがハンドリングエラー。WKのターンオーバーアタックが始まる。ターンオーバーとは、ボールの保持が相手チームに変わること。トランジションとも言う。攻撃側が突然防御となるので、陣形が揃っていないことが多い。攻撃に転じた側にとっては攻めやすい局面だ。また相手の反則によるトランジションの場合、アドバンテージが採用されるので、攻撃側は思い切った攻撃ができる。これにより、ミスをしても自軍ボールで再開となるからだ。ローリスク、  ハイリターンの場面であり、WKのアタックの見せ所なのだ。しかし、これもBLは止め切る。WKが外にパスを回すが、その周囲に2人、3人と殺到した。

抜かれた後の攻防でディフェンス力がわかる

前半20分からの1分間の攻防は、WKにとって精神的なダメージが大きかったように見えた。BL司令塔モウンガのキックを、WK12番ディアレンデがチャージ。そのまま足にかけると、俊足の2人、モウンガと14番ナイカブラとの走り合いに勝つ。60m前進させ、BL陣22m内でラックとなる。ターンオーバー局面であり、敵陣深くからの攻撃。WKが最も得意とする状況だ。しかし、BLの戻りも早い。WKのハンドリングエラーも重なり、3フェイズ目にはBLのディフェンスは整う。WKは次のフェイズでボールを奪われた。

ラインブレイクされた後に、ディフェンスがやるべきことは、タックルをしてラックを作らせること。これにより時間を稼ぎ、その間に、ディフェンスラインを整えて前に出る。このセオリーのお手本のようなプレイだった。WKは攻め手を失い、前半を28対10で終える。

WKは後半に強く、これまで多くの試合を逆転で勝ってきた。しかし、得意の攻撃のパターンを封じられたこの日は、後半も失速。試合のこり3分で42-24。再びWKがラインブレイクするが、次のラックにはWKの選手が3人に対して、BLは6人戻っていた。試合終盤でもBLの集中力は切れなかった。WKはラインアウトもワンパターンであり、成功率は50%を切ったことも大きく響いた。これも含めて、BLのディフェンスでのプレッシャーが機能したと言えるだろう。

これでBLが首位となり、WKは2位に後退。再戦があるなら、プレイオフ決勝が濃厚。これまでの得点源は封じられたWKは、どう立て直してくるのだろうか。長年、したたかに勝ってきたチームだ。突然、リスクのあるラグビーに切り替えることはないだろう。

ターンオーバーからのアタックやダイレクトプレイは、これまでのWKにとってブルーオーシャン(競争相手が少ない状態)であったが、BLのディフェンスがこれをレッドオーシャン(競争が激しい状態)に変えてしまった。新しいブルーオーシャンを見出し、わずかな隙から、固いディフェンスを崩しにくると予想する。