明日は、いよいよトップリーグプレイオフ決勝戦。
リーグ戦トライ数ダントツ1位のサントリーと、失トライ最少のパナソニック。見どころが多い組み合わせである。パナソニックはリーグで最もキックが多く、サントリーは最もパスが多い。サントリーの1試合平均9トライは、そのパスから生まれている。
フォワードパスのメカニズム
パスで最も多い反則は、前に投げることだ(スローフォワード)。パスがワンバウンドになってもいいし、片手で投げても構わないが、後ろか横に投げなくてはいけない。
試合中、反則の笛に選手が不満を表すことがある。特にスクラムやモールなど体をぶつけ合う場面に多いが、スローフォワードへの抗議は少ない。あまりに明らかで抗議する余地がないことが多いのだ。当人は、黙って下を向き、自分の持ち場へ帰っていく。慰めるチームメイトも他のミスに比べて少ない気がする。
では、そのスローフォワードはなぜ起こるのか。
オーストラリアの代表選手1名を含む20名の選手で集めた実験したところ、非利き手のパスのうち57%がスローフォワードとなり、利き手は14%だったという報告がある。 (Pavely et al. 2009)
それによると、非利き手のパスでは、リアクションタイムがより長く、ムーブメントタイムが短いという組み合わせが多い。ボールリリース前に、ボールを十分に体に引き寄せてないと考えられる。また、どちらの手においても、フォワードパスは、ヘッドターンが小さく、ムーブメントタイムが短いという結果になった。
多いのは、左パスか右パスか
では、トップリーグはどうだろうか。
手元にあった2021年のリーグ戦42試合とプレイオフ19試合で調べてみたところ、33回のフォワードパスがあった。少なくとも過半数の選手は右利きだろうから、左手でのフォワードパスが多くなるのだろうか。
右手パス 19回
左手パス 12回
結果は反対。トップリーグの選手ともなれば、得意不得意はないということか。
このうち3m以下の短いパスの数を除くことにする。これくらいのショートパスは、走りこんでくる味方へのパスが多く、その場合、タイミングが問題となる。投げる時に、味方が真横にいて、慌てて投げたらスローフォワードだったというケースだ。
右手ショートパス 8回
左手ショートパス 1回
理由は分からないが、こちらは圧倒的に右手が多かった。
(ショートパスでのフォワードパス。走りこんでくる味方に合わせた結果、前になってしまう)
左右差よりも状況次第か
これで、ショートパスを除くフォワードパスは22本(左右ともに11本ずつ)となった。
それらを見ていると、一つのパターンが繰り返されることに気づく。タックラーが迫っているような状況だ。つまり、強いプレッシャーを受けながらのパスである。
こうしたシーンは14回(右手8、左手6)あった。全体の64%である。
プレッシャー下にてスローフォワードが多く発生するというのは、理解しやすいし、先の報告とも共通している。
すぐにパスをする必要があるので、ムーブメントタイムが十分に取れない。また、時間的にヘッドターンも難しいと考えられる。
対応策としては、リアクションタイム(ボールを引き寄せる動き)を早くする。あるいは、無理に投げないことだろう。
決勝戦では、お互いの激しいプレッシャーの中で、どのようなパスを通すのか。あるいは、福岡選手がロングパスに飛びついてインターセプトを狙うのか。
日本一をかけた戦いでの、日本一のスキルの応酬に注目したい。
(プレッシャー下では、パスのための十分な時間が確保できない。その結果、フォワードパスとなる)