パナソニック優勝を支えた福岡の左足(後編) トップリーグプレイオフ2021決勝 パナソニックvサントリー

 (図1) Screen Shot 2021-05-30 at 21.34.45

 図1は、福岡のキック位置をシーズン全体(左)と決勝戦(右)で比較したものだ。シーズンを通して、福岡は主に22メートル内左側で蹴っているのが分かる。

 パークスの右サイドでのキックはサントリー対策と思われる(中編)が、福岡の左サイドはそうではないようだ。その要因として、次の2点が考えられる。

・福岡は左足キッカーであり、ここは左キッカーが蹴りやすいゾーンである。

・サントリーのバックスは、全員右キッカーである。

キッキングゲームでも貢献していた福岡の足

 福岡は、左ウイングなので、パスを右から受ける。左足であれば、スピードを大きく落とすことなく、走りながら蹴ることができる。

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 パナソニックは、自陣から脱出の際にこの福岡の左足を多用した。ボールを外に動かすと、相手のウィング(黄色14)は前に上がる。さらに福岡が走りながらキックをすることで、ディフェンス側に攻撃の準備をさせないという効果もある。これはどのチームに対しても、効果的だと考えられる。

 一方、サントリー側の同じゾーンから蹴っていたのは、主にバレットで、他に尾崎(15)や江見(11)が蹴る可能性もあった。いずれにしても右キックが得意な選手である。ここから右足で蹴るには、一度切り返す必要だ。プレッシャーを受けやすい上に、後ろで備えるディフェンスに時間を与えることになる。バレットは、時間をかけて右足で蹴ったり、得意ではない左足で蹴るシーンもあった。

 パークスのキックは、このゾーンを狙った。バレットは世界最高峰のキッカーであり、ランナーだが、この位置でキャッチさせることで、その能力を発揮させない効果があったのではないか。

 パークスは6本のキックを蹴っているが、このうち5本が前半である。前半の戦術的なアドバンテージになっていたと思われる。

「相手を動かしながら」のキックは、視野を狭める

 最後に、キックを蹴る前の「段取り」にも注目したい。

 中編で取り上げた松田(10)からパークス(12)へのパスの直前に、ラックの後ろで福岡(11)が逆サイドへ走っていた。これに尾崎(15)が反応したため、慌ててボールを追いかけることになった。

 トップスピードで走っている時、選手の視野は狭くなる。相手が何人迫っているのか、味方がどこにいるかといった情報収拾が困難であり、たとえキャッチができても、正しい状況判断のもとに攻撃に転じるのは難しい。「相手を動かしながら」のキックが有効な一因だ。

 対照的なシーンが、この直前の17分に起きていた。

 サントリー陣右側の、サントリーボールのラインアウトである。サントリーの流(9)のキッキングゾーンだ。福岡(11)が立つ位置に高いキックを蹴って、右ウイングやフォワードがチェイスする。

 このボックスキックはボールを下げないので、フォワードがすぐに前進できるのが利点だ。ただし、セットプレイからのキックなので「相手を動かす」キックではない。

 ボールを待ち受ける福岡(11)は、立ち位置をほとんど変えずにキャッチ。サントリー中鶴(14)が迫っていたが、パナソニックの坂出(2)が反則にならない程度に、中鶴のコースに割って入り、福岡のキャッチを助けた。「エスコート」と呼ばれるプレイだ。

 クリーンキャッチした福岡は、迷いなくカウンターアタックを開始。ラインブレイクが生まれ、次のフェイズでトライ寸前まで迫った。

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 (「相手を動かさない」は、キャッチする選手は定位置にいるので、味方との連携がしやすい。また、レシーブ側はエスコートの準備ができる)

 本稿では、キッキングゲームに焦点を当てて、パナソニックの狙いと戦術的な有効性について考えてみた。決勝戦の大舞台において、パナソニックが細かなスキル、戦術を確実に実行していたことが見えた。

 他の要素に焦点を広げれば、さらに多くの駆け引きがあり、サントリーが優っていた部分も見出せるはずだ。しかし、キックが通常の試合より増えるプレイオフにおいて、パナソニックのスキルと戦術が、サントリーのアタック力を試合終盤まで封じ込めることに成功したと言えるだろう。

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