常陽リビング ニュースに掲載

茨城県地域情報紙「常陽リビング」にインタビューが掲載されました。

ラグビーで広がる人生の輪
フリーライター柴谷晋さん
つくば市の柴谷晋(すすむ)さん(31歳)は昨年10月、聴覚障害者ラグビー(デフラグビー)の日本代表「オールクワイエットタイフーン」の活躍を描いた『静かなるホイッスル』(新潮社)を出版。自らも選手としてチームに在籍する一方、コピーライターの仕事やラグビー記者として、また、日本聴覚障害者ラグビー連盟の広報など幅広く活躍。ラグビーで得た経験を基に、今後も活動のフィールドを広げようとしている。

1月25日、常総学院高等学校ラグビー部・石塚武生監督を取材する柴谷さん
今年もまた、このグラウンドからのスタートとなった。

2007年元旦、近鉄花園ラグビー場。著書の取材で慌しかった昨年に比べれば、今年は日本聴覚障害者ラグビー連盟の活動のみ。場内に特設ブースを設け活動のパネル展示や物品販売がその主な業務だった。

気になるのは年末から見てきた母校・茗溪学園高の試合だが、その日は大阪工大高に苦戦。今季の母校はフォワード、バックスともバランスの取れた良いチームなのに、力を出し切れないままずるずるとノーサイドの時を迎えようとしていた。

このチームには何度となく足を運び、練習にも参加させてもらっていただけに、「試合後選手に何て声を掛ければよいだろう…」。そう考えた時、同じ3回戦、優勝候補にも挙がった自分たちの花園が胸によみがえる―。

あの日、ノーサイドの笛が鳴った瞬間、負けた悔しさの中にも安堵に似た不思議な気持ちを味わっていた。1994年、優勝候補とまで目された茗溪学園はまさかの3回戦敗退。試合は大分舞鶴ペースで自分たちのラグビーをさせてもらえなかった。

がっくりうなだれるメンバーをよそに、いま一つその輪からはみ出しているような疎外感―。思えば「補欠になったら恥ずかしいしみっともない」とレギュラーの座にこだわった6年間だったが、「これからはラグビーだけで終わりたくない」。そんな思いから高校3年を一つのピリオドと決めていた。

上智大学に進学しフランス語学科を専攻。サークルなど大学生活を満喫するが、その生活にも慣れ次第に時間を持て余し気味になると再び気持ちはラグビーに戻る。ただし、大学からラグビーを始める初心者が交じるチームでは、花園という目標に向かったかつての部のスタンスとは一線を画す。それでも「ラグビーが楽しめれば良かったし、自分にはちょうどよい」と思ったが、ラグビーシーズンの冬が到来し仲間がテレビで活躍する姿を見ると、焦燥感と共に再び本格的にラグビーがしたくなった。

早速、フランスにラグビーと語学の留学先を求め、トゥールーズの名門クラブ、スタッド・トゥールーザンの21歳以下チームに所属。語学学校に通いながら選手生活を始めた。

しかし、「勢いだけで来たこと、準備不足」は否めなかった。チームになじめず、練習試合で故障したのを機にグラウンドから足が遠のいた。さらに帰国直前の旅先で発症した突発性難聴で、ラグビー選手として2回目のピリオド。

「最初は、右耳は聞こえるんだし日常生活には支障ない。まあいいやって思っていたんですけど―」

騒がしい飲み屋では同席者の声が聞こえず、何度も聞き返すこともはばかられ次第に言葉さえも失った。いつしか人と会わず自宅にこもる日が多くなり、ラグビーを思い出すことも苦痛になったが、ネットでたまたまデフラグビーの存在を知り、練習に参加すると再び気持ちは変わった。

そして2002年、世界大会に日本代表として出場。「試合でこのチームのために頑張ろうと思った時、初めてラグビーが楽しいと思った。今までは自分のことしか考えてなかったんだなって」。補聴器を着け人前で手話ができるようになったことや、デフラグビーを通じて人の輪や仕事が広がるたび、それまでの心のつかえが外れるように一つ一つ自由になる自分に気付いた。

1月25日、常総学院高ラグビー部・石塚武生監督を訪ねたのは、監督に就任して一年が経とうとする石塚監督の取り組みが気になっていたからだ。オールクワイエットタイフーンが世界大会に出場する際、その強化合宿で石塚監督が臨時コーチを務めた経緯があり、著書の取材を通じての面識もある。その熱血指導は身を持って体験しているだけに、元日本代表主将・名フランカーが作るこれからのチームが楽しみでもある。

選手として、またライターとして、ラグビーボールを追い続けるうちに広がった人生の輪。その輪を大切にはぐくみつつ、今後は新たな分野の執筆を視野にトライする意欲が沸いている。

「今年の茗溪学園の花園が終わった時、皆すごい落ち込んでいるように見えたから、ある選手にメールを送ったんです。励ましメール。でも皆ケロッとしてるって返事でホッとしました。花園とは? う~ん、自分には終わりであり始まりの場だった。きっとみんなもそうなんじゃないかな」

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