ボーダーレスなラグビーレッスン 算数とハンドリング(コラム83)

知らなかった。物理が役に立つ学問とは。

2019年からの2年間、私は日本体育大学の大学院に通いました。6年前なので入学時は45歳でした。午前中は講義を受け、午後からは当時アナリストとして所属していた日野レッドドルフィンズのグランドへと向かう毎日でした。

半年ほどして、研究の参考にと論文を読み始めた頃のこと。非常に驚いたことがありました。それは中学生以来、30年以上迷っていたパスの投げ方について、偶然読んだ論文に、その明確な答えがあっさりと書いてあったのです。

学んでいたのは、力学を使ってスキルを研究する方法。スポーツバイオメカニクスと呼ばれます。私には全く馴染みのなかった世界です。力学どころか、数学、いや算数も好きではなかった。

論文を読んだ時、こう思ったのです。

なんだ。物理というのは、こんな風に役立つのか。早く教えて欲しかったよ。

学生時代の私は、数学や物理に興味が持てず、こんなの世の中でどう役に立つんだよ、と自分の努力不足を棚に上げて、心の中で悪態をついていました。

でも、あの頃、物理はこのようにラグビーの技術向上に役立つんだよ、とヒントをくれる人がいれば、少しは変わっていたかもしれないな、と思うようになりました。

アカデミーのスローガンは「文武合道」。

それから2年後に、小中学生向けのアカデミーを立ち上げた際、「文武合道」というスローガンを考えました。両道でなく合道です。文武両道というのは、文(学業)と武(ラグビー)は、そもそも別のものであり、どちらもしっかりやりましょう、という教えですね。そうではなく、互いが互いを高め合うものにしていこう、という意味で「合道」としたのです。

最初に始めたのは、英語でラグビーを教えること。4年前から始めて、少しずつ軌道に乗ってきました。今年度からは「多文化共生教室」として大田区の助成対象事業となりました。

この教室では、まず外国籍の高校生ラグビー選手たちに英語を教えてもらいます。次に、一緒にタッチラグビーを楽しむ。トライをしたチームは、コーチ(私)のところへ集まり、クイズに答える。クイズの内容は、最初に教えてもらった英会話です。答えられればトライは認められ、間違えるとトライキャンセル。大変盛り上がります。

LINE_ALBUM_2026729 合宿_260813_20

(多文化共生教室の様子。レッスンの最初、外国籍のお兄さんたちから英語を習っています)

LINE_ALBUM_2026729 合宿_260813_19

(座学では、教科書会社光村図書が開発したAIティーチャーToc-meも活用。AIによる英語の質問に対して、英語で回答。正しい発音であれば、正解となります)

実は同じ方法は、手話タグラグビーでも数年前から用いていて、私の印象では、手話の方が親和性があり、上達も早いように思います。手話は体を使う言語であり、英語は音声言語であるという違いからきているのかもしれません。

(手話タグラグビーについては公式インスタをご覧ください)

英語ラグビーの場合、英語はどうしてもおまけ扱いになってしまう。ちょっと面倒。でも、得点をもらうために覚えよう、という感じ。

少なくとも、英語への親しみは増すし、発音の練習にはなります。また、多文化共生の醸成としては良いと思います。

しかし、英会話力やラグビースキルがこれにより高まるかというと、それは疑問です。もともと得意な子は得点できるが、苦手な子は得点を逃す。これでは、苦手意識を深めてしまうだけかもしれない。

2日目AM6 英語LINE_ALBUM_2026729 合宿_260813_5

(レッスンの後半はグランドで。タッチラグビーで得点をしたチームは、習った英語を答えないと、得点が認められません。正解すれば、チーム全員でハイタッチ!)

ラグビー算数はAIの得意分野。

そんな問題意識を持ちつつ、英語ラグビーの準備を進めていました。

次回は7月末です。ちょうどこの時期に、高学年生向けのミニ合宿を計画していました。練習場所はいつものグランド。夏場なので、昼間は暑くて練習はできない。そこで、午前中に高校生に来てもらって「多文化共生教室」を行うこととしました。

「午前中は英語ラグビーをします。お弁当の後は、夏休みの宿題をするから持って来てください。それ以外にも、算数を用いてラグビーを学ぶ算数ラグビーも実施します」と案内文に書いたのです。

その時は、具体的なアイデアはありませんでした。英語ラグビーもあるなら、算数ラグビーがあっても良い。単なる思いつき。思いつかなかったら止めてしまおう。

合宿前日は、英語ラグビーの準備にあてました。算数ラグビーは2日目の昼の予定。その日の朝、とても早く目が覚めてしまったので、とりあえずAIに相談してみることにしました。

「小学生高学年向けに、ラグビーをテーマに速度を考える問題を作りたい」

なぜ「速度」をテーマにしたかというと、小学6年生の娘が最近、速度の問題を解いていたから。

AIは、スルスルと、問題、解答、解説、さらには先生や保護者へのアドバイスまで表示してくれました。

こうした情報は、ネット上に数多とあるため、設問はAIの得意分野なんですね。ただし、ラグビースキルの解釈に関しては間違いもあるので、その辺りを修正するやり取りを何度か繰り返したところ、こんな問題が完成しました。

【第3問:応用】(ならんで走るパス)

AくんとBくんが、横に10m離れてとなりに並び、2人とも秒速6mの同じ速さで前に向かって走っています。Aくんは、自分の真横(パスを投げた瞬間の真となり)に向かって、秒速10mのスピードでパスを投げました。
Bくんが走るスピードを落とさずに、このパスをぴったり正面でキャッチするためには、BくんはAくんの何m後ろを走っていればよいでしょう?
ア:3m後ろ  イ:6m後ろ  ウ:8m後ろ  エ:10m後ろ

ちなみに、この前の問題は、速度の基本を問う内容。そこからのステップアップとして、この第3問です。

2日目午後 算数を使ってラグビーを学ぶ LINE_ALBUM_2026大森荏原夏合宿_260813_18

(算数ラグビー第1回目の様子。かなり食いついてます)

早速、合宿の昼休みにやってみることに。小4から中1まで12人が参加。グループを作って、一緒に解いていく。

なんだよ。算数かよ。ラグビーの合宿に来てんのに、なんで計算しなくちゃいけねーんだよ、という、昔の私のような子は一人もいません。

下を向く子はいましたが、グループ活動なので、逃げるわけにもいかない。算数が苦手な子はもちろんいますが、大好きなラグビーに関する問題なので、少なくとも興味は持っていました。

そして、解いてみれば、こんな風に感じてくれたはずです。

速度の計算というのは、ラグビーに役立つんだな。

自分で計算をすると、自分の体が覚えるようになる。

ここからが新しい発見です。この計算をするという過程が、スキル向上に貢献するということを知ったのです。

先ほどの問いは、パス回しに関するものでした。A選手の横にいるB選手は、何メートル後ろから走り込むべきか。B選手が、A選手と同時に走り始めると、パスキャッチの際に、後ろにそれてしまいます。パスが空中にある間に、B選手が追い抜いてしまうからです。「初心者あるある」現象です。その度にコーチは「斜め後ろからスタートしよう」あるいは「ためてから出よう」(タイミングを遅らせよう)と指導します。でも、ボールを持つ人に釣られて、同時に走ってしまうのです。

でも、この計算問題を解いてからグランドに立つと、初心者もこの「コツ」をちゃんと覚えていました。うっかり忘れてしまう選手がいても、「さっきの計算の答えはなんだっけ?」と聞けば、すぐに思い出します。

コーチと選手の間に、計算を通した共有認識ができあがり、繰り返し指示をする必要がなくなったのです。

IMG_1012

(ヒントを与えながら進めていけば、全員、理解はできる。少なくともグランドでの変化は全選手から感じることができた)

算数が苦手で良かったと私は思いました。得意だったら、こんなことは当たり前であり、わざわざ考えないだろうから。私は、AIに「素晴らしい問題ですね」などとおだてられ、算数は楽しいなあと感じながら、問題を作っています。

合宿後の練習では、クロスやループのタイミングを計算させてから練習をしてみました。やはり、上達が早いです。

ラグビー算数は、良いことづくめ

指導する側にとっても、事前に計算問題を作ることで、指導方針が明確になります。また、普段はこちらの話を聞いているのかどうか分からないような子から、こちらの計算間違いを指摘されて、ハッとすることもありました。ラグビーの練習だけでは分からない、選手の特性も把握できます。ラグビー算数は、良いことづくめです。(計算間違いに関しては、AIのせいにすれば問題なし)

いまアカデミー活動を広げていくために、一般社団法人の設立を準備しています。法人名は、「ボーダーレスラグビーアカデミー」。

国境や言語を超えて活動する。さらには、学業とラグビー、障がいの有無のボーダーも超えるという意味も含まれています。

勉強も運動もどちらも大好きという子どもたちを、どんどん増やしていきたいですね。

2026年8月16日

2日目午後 集合写真 2日間充実した練習でした LINE_ALBUM_2026大森荏原夏合宿_260813_49

(頭も体も鍛えた文武合道合宿が終了。私にとっても発見の多い合宿となりました)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加