「聞こえなくてもラグビーはできるのですか」
そういう質問を受けることがある。「できますよ」
「ルールに違いはあるのですか」
「ほぼ同じです。ただしスクラムでは、レフリーのコールを手で表します。レフリーが腕をこうやってスクラムの間に入れてですね…」
だいたいこの辺りで質疑応答は一区切りとなる。たいていの質問者は、意外だという表情を見せる。あんまり変わらないんだなあ。
確かに見た目はほとんど変わらない。でも、やってみると全然違う。その点をyoutubeチャンネル「らぐびーくえすと」が、見事に映像化してくれた。
元セブンズ日本代表の林大成選手が、自らを聴こえない状態にして、練習に参加。今まで、多くの取材を受けてきたが、自ら体験したいと言った人はおそらく彼が初めて。
映像内で、前にいる林選手に別の選手が声をかけるが反応がないというシーンがある。聞こえない状態なのだから当たり前。でも、ついつい声で呼んでしまう。
その状況で、どのようにプレイするか。これが難しい。これを、まさに体当たりの取材で表現してくれた。番組タイトルもそれを的確に表しているように思う。
【激ムズ】ラグビー史上最も困難なラグビー!?デフラグビーの練習をしてきた
https://www.youtube.com/watch?v=zguwkmTWaGE
年末に、私も似たような経験をさせてもらった。
手話で小中学生たちにサッカーを指導する「サインフットボールしながわ」。このチームの「24年蹴り納めの会」に参加してきた。
聞こえない子と聞こえる子が一緒になって手話べり(おしゃべり)をする環境づくりや、お互いの良さを認め合える環境を目指して、品川区出身で、デフサッカー日本代表前監督の植松隼人さんが立ち上げたチームだ。
https://www.sign-football-shinagawa.com/
昨年12月に、私が運営する手話タグラグビー教室に、特別ゲストとして植松さんに来てもらったことから、蹴り納めの会にも呼んでもらった。
集まったメンバーでチームを作って、遊びのフットサルの試合をする。場所は、しながわ区民公園の子どもサッカー場。あと数日で大晦日とは思えないほど暖かく、少し動くと汗ばむほどの日差し。次々と上着を脱ぎ、気持ちの良い汗をかいた。
サッカーの試合は小学生以来。遊びとはいえ、最初は緊張した。参加メンバーは、このチームのOBや、デフサッカー、デフフットサルの選手が多いが、なんとJリーガーの姿も。
始まると、皆さん手加減してくれていることもあり、楽しい。さっき会ったばかりなのに、あうんの呼吸でワンツーが決まったりすると、とても嬉しい。
しかし、最後のシュートは外した。そうそう、私は小学生の時も、最後に決められない選手だった。
そんかことを思い出すが、なんかその頃とは雰囲気が違うことに気付く。サッカーってこんなに静かだったっけ?あ、そうだ、これはデフフットサルなのだ。
試合の合間に、現役選手にコミュニケーション方法について質問してみた。
「ラグビーほど難しくはないと思います。でも、ディフェンスでうまくいかないことはある」
それはどういう時?
「コンパクトにディフェンスをするには、攻撃と守備の距離を近くする必要があります。でも、どちらかが見ていないと、一方はスペースを詰めているのに、一方は広がったままという状態になってしまう」
なるほど。これはデフラグビーでもある。周りを見ずに、1人だけが上がってしまってギャップが生まれてしまう、などなど。声で連携が取れない分、首を振って、よく周りを見る必要がある。
デフサッカーの選手にラグビーを体験してもらったら、コミュニケーションがさらに良くなるじゃないかな。
ラグビーの選手は、よくサッカーをしたがる。良い気分転換にもなるので、私も時々導入する。でも「ディフェンスを30mに保ってプレイして」などと指示をしたら、コミュニケーションのトレーニングにもなりそう。
私にとって37年ぶりのサッカーは、そんなことを考える、貴重な経験でした。
また行きたい。そして、ワンツーからシュートを決めたい。