(コラム37) 言い換えトレーニング

最近、ラグビー用語に関する興味深い発表があった。

いくつかの用語を変更するという。代表的なものを挙げると、ノックオンは「ノックフォワード」。ジャッカルは「スティール」。インゴールという名称は止めて「トライエリアまたはトライゾーン」。

ノックオンは、ボールを前方に落とすこと。ジャッカルは、倒れたボールキャリアのボールを奪うこと。インゴールは、トライをするエリアのこと。ラグビーならではの言い回しをやめて、誰にとっても分かるような名称に変えている。

40年近くラグビーと付き合ってきたが、名称変更というのは初めてかもしれない。適応できるだろうか。

さっそく練習で使ってみる。ピッと笛を吹き、これまでと同じジェスチャーとともに「ノックフォワード!」。違和感はない。すぐに適応できそうだ。

たまに「カタカナ禁止」というルールでタッチラグビーをすることがある。これが結構盛り上がる。こちらは、すぐには適応できないからだ。

「落球!」という聞きなれない熟語が連発される。「前投げ!」はスローフォワード。ボールより前でプレイしてしまう反則に対しては「前過ぎ!」とでも言ってアピールすべきだが、思わず「オフサイド!」と叫んでしまい、逆に反則を取られる。

反則を取る側のレフリーが最も大変だ。ルール理解力が試される。難しいのは「アドバンテージ」。一方が反則をしても、相手チームに有利な状況が続く限り、ゲームを続けることを表す。この場合、直訳して「有利!」と叫んでも意味がない。「続けてよし!」あたりが妥当だ。「カタカナ禁止タッチ」は遊びだが、実は頭のトレーニングにもなる。

コーチにおすすめの言い換えトレーニングもある。

指導時の速い、強い、高い、低いなどの形容詞禁止。可能な限り、大きい、小さい、多い、少ないのみで表現する、というもの。

私は43歳の時に、物理の知識がほとんど無い状態で、スポーツバイオメカニクス(生体力学)を学ぶために大学院に入学。担当教授は、その世界の第一人者であり、あまりに知識の乏しい私は、毎日冷や汗をかいていた。それでも教授は親身になって指導してくださった。例えば、速度や角度は「大きい」「小さい」で表しなさい、などと基本的なことから教えていただいた。

そうだったのか。知らなかった。しかし、これを守って論文を書こうとするが、全く進まない。スポーツの中で起きている現象についての理解が足りないからだ。普段、何気なく使っている、速いとか強いという表現が、物理的には何を示すのかを考えなくてはいけない。そして、このトレーニングは技術指導に役立つことを知った。

例えば、

A君は当たりが強い⇒A君は質量が大きく、接触時の速度が大きい

Bさんは足が速い⇒Bさんは脚の回転数(ピッチ)が多い、または歩幅(ストライド)が大きい

C君は速くて長いスピンパスが放れる⇒C君のパスは、ボールリリース速度が大きく、リリース角度が適切。また、ボールの長軸回転数が多く、回転軸のブレの割合が小さい。

候補がいくつか考えられる例もある。

モールディフェンスが強い⇒

候補①ディフェンス側の選手の質量が大きい

候補②ディフェンス側の選手が相手に接触する際の、速度が大きい

候補③ディフェンス側の選手が相手に接触する際、各選手の肩関節と股関節を結ぶ線が、地面に対して並行を保っており、相手に対して、自分たちの質量を効率よく伝えている。また、その姿勢を保ち続けている。

本日の大学選手権決勝戦でも、これをやってみるつもり。

解説者の何気ないコメントを、自分なりに翻訳する。すると、その選手がどうして他の選手よりも能力が高いのか、あるいは、そのチームが意識している点が何なのかなど考えるヒントになる。

ただし、やろうと思っても、頭が空っぽでできないことも。双方が好プレイを連発する熱戦になると、考えることはできなくなる。

そういう時の形容詞は「すげー!」の一択。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加