サッカーは「システム」では勝てない

他競技の分析に関する知識を得ることは、いつも刺激的である。

「これはラグビーでも応用できるなあ」とか、「なんでこの手法を今までやらなかったのだろう」という発見を与えてくれる。

本書「サッカーはシステムでは勝てない」には、特にそうしたヒントが多かった。

サッカーはシステムではなく、「ゲームコンセプト」で勝つ時代だと言う。

例えば、2009-2010シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝、インテルvバルセロナの2試合がその幕開けとなった。

華麗なパスワークのバルセロナ(グラウディオラ監督)に対して、モウリーニョ率いるインテルは、カウンターで打ち破った。

システムとは、自分たちの布陣である。4-4-2とは3-5-2といった形である。

形ではなく、コンセプトで勝負する。この場合、相手にボールを支配させた上で、ボールを奪ったら前線の3人へ渡すというのがコンセプト。

バルサのサッカーは、「1アクション、3リアクション」。相手3人で作る三角形の重心に入り込んでボールを受ける。3人から等距離でボールを受けることで、相手を混乱させる狙いがある。通常DF3人全てがプレスをかけるため、これを連続させるバルサが数的優位を作る。

モウリーニョはこれに対し、「1アクション、1リアクション」あるいは「1アクション、0リアクション」の守備を徹底させ、いくつものインターセプトを成功させた。

翻ってラグビーでは、今は「システム」重視と言えるだろう。もっとも多い例は、ディフェンスシステム。自分たちの形であるシステムを守り、それでも抜かれたら仕方がないと割り切る。

これに対して、コンセプトとは相手を分析して、どのように守るのが効果的か、そして、ボールを奪ったら何をするのか、を明確に示すもの。そのコンセプト作りにデータ分析が生かされているのだ。

本書には、他にも、2014年ワールドカップでのブラジル惨敗の理由(タクティカルファールの多用と、ネイマールの不在)や、グラウディオラのバイエルンでのコンセプト(ヘキサゴン)などがデータとともに詳細に解説されている。

著者、庄司悟氏はドイツでサッカーを専門的に学び、ドイツのデータ配信会社Impireと提携して独自の分析活動を開始。現在は日本国内で活動中。

本書は、著者が持つ豊富なデータに裏打ちされており、それが明快さと説得力を与えている。いつかこのようなラグビー分析本を書いてみたい。そのためには、私にはまだまだ学ぶことが多いなあ。そう感じさせてくれる良書である。


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