Mac Fanの取材にて、日本柔道の分析を担当するお二人(石井孝法氏と鈴木利一氏)とお会いする機会を得た。
そこで感じたのは、日本男子柔道は井上康生監督のリーダーシップのもと急速に結束力を高めている、ということ。
どのように優れたリーダーなのかを知りたいと思い、購入した。
本書を通して感じられるのは、井上氏が礼儀を重んじ、柔道のために人生を捧げる伝統的な柔道家であると同時に、合理的な考え方を持つ人物だということ。
例えば、日本柔道「改革」の中で、次のような決断を下している。
その末に我々が選んだのが、「100kg級代表選手選出見送り」でした。
日本が代表の選出を見送ることなど前代未聞、1956年に世界選手権が始まって以来のことです。
(88ページより抜粋)
ロンドン五輪で金メダルゼロというどん底からの復活のためには、これまでにはなかったことをしなくてはならない。実力がないのに代表に選んで甘やかす方が成長を妨げる、という合理的な判断であり、「固定観念にとらわれない大胆かつ大幅な変革をしていくのだという、我々の意思表明」なのだ。
文中には、随所に(私が取材をしていた)エディー・ジョーンズ氏の取り組みと重なる部分も多かった。
「大作戦」は練習以外の場面でも行いました。
例えば、強化合宿の宿舎のレベルダウン。共同トイレ、10人部屋のようなところをあえて選べ、快適とは言えない環境下で合宿を行いました。
(182ページより抜粋)
ジョーンズ氏もオーストラリア代表監督時に、同じことをしたと何度か聞いている。目的は、タフな環境に慣れること。国際大会では、どんな状況が待っているか分からない。合宿で体験しておけば、本番で慌てることはない。
これも合理的な考え方だと言える。
コーチ経験や社会人経験が長い訳でもないのに、なぜこれほど見事に組織改革を成功に導けたのか。
その秘訣は、本書の冒頭に明かされている。
「『もしも』という問いを立て、『なぜ』と考える習慣をつけなさい」
(41ページ)
井上氏が帝王学として、佐藤宣践氏(元東海大体育学部長)より何度も言われていた言葉とのこと。
感心すること、学ぶことの多い一冊。