15人制ラグビーにおいて、勝利に貢献するスタッツはトライ数とラインアウトスティール数のみ
私は日頃から早寝早起きですが、年末年始は早起きが加速します。元旦は5時起きでしたが、その後1時間ずつ早まり、ついに午前1時半に目が覚めてしまいました。そうです。連日の高校ラグビーが、私を真夜中の覚醒へと導くのです。
午前2時から見始めた試合は、高校ラグビー準々決勝、天理対桐蔭。優勝候補の桐蔭に対して、天理が奮闘します。驚いたのは、天理フォワードの身長です。バックファイブの最高が172センチ。それでも、前半は19対20の接戦を演じました。
テレビ観戦をしていると、前半終了時や試合終了後にこのようなスタッツが登場します。そして、トライ数、反則数、スクラムやラインアウトと成功数などが紹介されます。ただし、勝利に貢献すると統計学的に言えるスタッツは、トライ数とラインアウトスティール数のみと言う報告があります。*1
ウィニングスタッツは、ゲームによって変化する
トライ数が増えれば、そのチームは勝つ可能性が高まる。これは当たり前ですね。もう一つのラインアウトスティールとは、相手ボールのラインアウトを「スティール」、つまり奪うことです。ラインアウトは、ボールが外に出た後に行われるリスタートで、1列ずつに並んだ双方の選手の間に、ボールを投入し、味方選手はジャンプをしてボールをキャッチします。これを相手が奪われると、一瞬にして攻守が入れ替わります。攻める機会が奪われると同時に、急に防御となるのでピンチとなります。これが勝敗に影響する。また、密集でのターンオーバー(攻守が入れ替わること)も限定的ながら関係する。逆に言うと、これ以外のスタッツは、勝敗とは直接は関係がない、ということになります。
この研究は、2002-03年シーズンにヨーロッパで行われた国内プロリーグの試合から20試合をランダムに選んで実施されたもの。ラック成功率、タックル成功率やオフロード成功率など主だったスタッツは含まれています。少々データが古く、サンプル数も少ないですが、現在の試合でもタックル成功率が低いチーム、あるいは反則数が多いチームが勝つことは稀ではありません。トライやラインアウトスティールも絶対的なものではなく、トライ数が少ないチームが勝つこともあります。
つまり、ラグビーではこの数値で上回れば勝てると言うものはほとんどなく、それはチームや試合によって変化する。したがって拮抗した試合では、何がその試合のウィニングスタッツであるかをいち早く見出した側が勝利に近づくのです。
スキルがあるから、正しい判断が生きる
天理対桐蔭では、前半に天理がサインプレイからトライを奪います。敵陣でのセットピース(スクラムやラインアウト)が起点でした。一方の桐蔭は、トライは奪うものの、天理の内側から外へ飛び出してくる特殊なDFに苦しんでいました。そのままだったら、番狂わせもあったかと思います。しかし、後半に入ると、桐蔭はロングキックを多用し、敵陣へ入ります。そこから2本トライを奪って優勢に立ちました。
桐蔭側のウィニングスタッツの観点から見ると、敵陣でのラインアウト数だったのだと思います。スタッツ上は、前半の天理ラインアウトは成功率100%。しかしながら、身長差もあり、苦戦していました。また、天理のキックは飛距離が出ていなかった。さらに、天理のトライは、桐蔭陣内でのセットピースが起点。つまり天理陣にボールがあれば、得点の可能性は低くなるわけです。
ただし、「敵陣でプレイする」はどのチームにとっても有利であり、ウィニングスタッツとは言えません。これを訴えても、意味がない。より具体的に「敵陣でラインアウトを取ろう」とすれば、自分が何をすれば良いのか明確になります。
こうした公式スタッツからは出てこない、ゲームウィニングスタッツを桐蔭は見出し、実行したように見えました。
準決勝の東福岡戦では、東福岡のディフェンスがラック周辺に集まる傾向にあり、試合序盤から外のランナーがラインブレイクを繰り返していました。こういう状況であれば、桐蔭にとってのウィニングスタッツは、ラック成功率になるかと思います。ラックがクイックでなくてもキープさえしていれば、外側でチャンスを生み出せていたからです。
桐蔭の選手はスキルが高く、そして判断力もある。スキルが低いチームなら、正しい判断をしても、ミスを繰り返して負けてしまうということがあります。完成度が高いというのは、こういうチームを言うのだなと感じます。
本日の決勝は、どう戦うのか。前半と後半でどう変えてくるのか。何がウィニングスタッツになるのかに注目したいと思います。
やっぱりラグビーは面白い!まだまだ寝られません。
(東福岡対桐蔭 試合終了 桐蔭はBDターンオーバーで奪われたのは2回だけ。東福岡を上回っていたことが分かります)
*1 Nicholas M.P. Jones et el (2004) Team performance indicators as a function of winning and losing in Rugby union, International Journal of Performance Analysis in Sport · August 2004